『ムスコ物語』 ヤマザキマリ 316
マリさんの息子さんの「デルス」という名前は、映画「デルス・ウザーラ」から付けられています。(東シベリアのナナイという民族の名前で、日本ともイタリアとも関係はなく、日本語に訳すると「白い丘」という意味だそうです。)
デルスくんの「生物学的父親」とは結婚せずに、シングルマザーとして生きることにしたマリさん。この子を抱えて生きていかねばならぬと決断したことが、マンガを描くというその後の人生を生んだというのは、実に不思議な気がします。
デルスくんが6歳の時に、20歳の大学生だったベッピーノとマリさんは出会いました。この2人は初めて話をしたときから気が合っていました。でも、それよりもバシッと気が合ってしまったのはデルスとベッピーノでした。グズグズしていた大人2人が、デルスくんに「自分たち3人は家族になるべきだよ」と言われて、結婚が決まったというのです。
自分血のつながらないベッピーノはデルスによると「家族になってもぼくの父親にはなれないんだって気がついたあと、さっさと等身大の子どもっぽい自分に戻せたところがすごい人」なのだそうだ。デルスからそんなふうに思われていることを、もちろんベッピーノは知る由もない。
この両親のおかげで、世界中を引越しまくることになってしまったデルスくん、言葉や習慣などでいろいろ苦労はあったけど、でもこんな体験ができる自分は幸せだと感じているようです。ビオラ奏者だった祖母から習ったバイオリンはイマイチ気に入らなかったけど、チェロを弾くようになってからは、かなりこの楽器が気に入ったようです。音楽によって言葉の壁を破ったこともあったそうです。
両親が喧嘩していて、どうしようもない状況になったときに、感情的になりやすい2人の間に入って冷静に仲裁をすることもあって、マリさん曰く、親子の立場が逆転したような状況の家族だという所が、実に面白いです。
最後の章で、デルスくんはマリさんをどう思っているのかという文章を書いています。彼女はとても正直で、訳の分からないことを衝動的にやってしまうので、困ったこともいろいろあったけど、そのおかげで今の自分があると言っているところがステキだなと思いました。
息子にとってこの世で誰よりも理不尽でありながらも、お人好しなほど優しい人間である母ヤマザキマリ。そんな母のおかげで国境のない生き方を身につけられた私は、おかげさまでこれから先も、たったひとりきりになったとしても、世界の何処であろうと生きていけるだろう。 山崎デルス
2978冊目(今年316冊目)
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