『運転者』 喜多川泰 355
修一さんは、保険の外交員です。最近仕事が上手く行かなくなってきて、給与が減るということを奥さんに伝えなければならないけど、「どうしてなの?」と反撃されることが怖くて言えずにいます。このままでは会社にも居づらいし困り果てていました。
そんな彼の前にタクシーが止まりました。そのタクシーに乗ると、そのタクシーの運転手は不思議なほど修一さんのことを知っているのです。そしてこう言うのです。
とにかく、大事なことですから忘れないでくださいよ。運か劇的に変わるとき、そんな場、というのが人生にはあるんですよ。それを捕まえられるアンテナがすべての人にあると思ってください。そのアンテナの感度は、上機嫌の時に最大になるんです。逆に機嫌が悪いと、アンテナは働かない。P55
ネガティブなことばかり考えてしまう修一さんは、このところ心から笑ったことなどありません。それどころか眉間にしわが寄るようなことばかりなのです。急に上機嫌になれって言われたって無理だ!と益々機嫌が悪くなってしまいます。
笑う門には福来るというように、プラス思考が大事なんだよって何度も修一さんは言われてきました。でも、作り笑いしたり、無理やり夢を見たりしたって意味ないじゃないかと思っています。だからタクシーの運転手の言うことはもっともだとは思うけど、自分には無理だと言ってしまうのです。
でも、運転手は何度も修一さんの前に現れます。そしてこう伝えたのです。
あなたがその物語に登場した時よりも、少しでも多くの恩恵を残してこの物語を去る。つまり、あなたが生きたことで、少しプラスになる。それこそが真のプラス思考じゃないかと思うんです。
修一さんは大抵のことをネガティブに考えてしまうし、素直じゃないし、どうしてそんなに意固地なんだろう?それって、自分に自信がないからなのかしら。読んでいてそういう所が気になるということは、自分にも似たようなところがあるってことなのよね、きっと。
運転手さんが言うように、ほんの少しでいいから毎日良いことをするって、とても大事なことなんだなって、気持ちになってきました。
自分自身のこれまでことを考えてみると、10年に1回くらい人生がガラッと変わることが起きています。その時は「何で?」と思うのだけど、後になってみれば「あれが転機だったな」と思うことばかりだから、わたしは運が良いと思っています。
これから死ぬまでにどんなことが起きるのかは予測不能ですけど、毎日笑って暮らせる人生でありたいと思うのです。
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