『残された人が編む物語』 桂望実 354
この本に登場する人たちは、失踪者のことをずっと気にかけてきました。いつか帰って来るのではないか、帰ってこないにしてもどこかで元気に暮らしているのではないかと考えていた人がほとんどです。でも、探していた人が亡くなったということがわかると、心が揺れるのです。とにかく見つかったということに安堵はするけれど、その死に対して責任を感じてしまう人もいるのです。
行方不明者を探してくれる「行方不明者捜索協会」という会社に調査を依頼していた人たちは、この会社から意外な提案を受けるのです。探していた人が、失踪した後どんな暮らしをしていたのか?どんな部屋にいたのか?どんな人たちと関わってきたのか?を知ることによって、あなたの心の傷が癒されるというのです。
「心の傷のかさぶたを早く作るには物語が必要です」
時間が経てば、自然と癒されるのは確かだけれど、失踪した人のその後を知ったり、想像したりすることで、つらさが軽減されるという言葉に諭されて、個人と親しかった人に会いに行ってみると、意外なことが語られるのです。
長年連れ添った夫なのに、その人の本質に気づいていなかった人もいれば、自分が幼いときに家から出て行った母の当時の想いに触れたり、こうやって調べてみなかったら、気づかずじまいだったなということがたくさんありました。そして、自分がこれまで作り上げていた物語よりも、新しい物語の方が明るい気持ちになれると思えたのです。
第一話 弟と詩集
第二話 ヘビメタバンド
第三話 最高のデート
第四話 社長の背中
第五話 幼き日の母
残された人にとって、失踪してしまった人というのは、とても扱いが難しいものですね。死亡が確定すれば諦められるのに、もしやと思うからこそ諦めきれません。それが重い足かせになってしまっている人もいます。
この本を読んでから気になって調べてみたら、失踪者として警察に届けが出ている人が、1年間に84,910人(2021年警察庁調べ)もいるのだそうです。失踪の理由は病気、事故、犯罪など様々ですけど、最近では認知症の方が増えているということで、これからも益々増えそうです。
わたしの交友関係にも失踪者が何人かいます。
わたしの小学校の同級生で一時失踪していたしていた人がいました。その人は交通事故で記憶を失くしてしまい、連絡がつかなくなってしまっていたのです。幸いにも見つけることが出来ましたが、記憶は戻ってきません。
友人の夫は、妻と小学3年生の子どもを置いて失踪してしまいました。7年待って失踪宣告しましたし、もう探す気はないそうです。
残された人が編む物語は、失踪した人の数だけ存在するのです。
3016冊目(今年354冊目)
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