『美徳のよろめき』 三島由紀夫 339
親が決めた夫と結婚して3年目の節子は、夫が自分に興味をあまり持っていないという不満を抱いていました。結婚前に一度だけキスをしたことがある青年、土屋のことを思い出し、彼に声をかけてみたのです。土屋との逢瀬は、あっという間に不倫というレベルまで進んでいきました。
豊かな家のお嬢様が、そのまま奥さまになった節子。小さな子供がいても、その子を育てるために躍起になっているわけでもなく、女友達をお茶をしたり、観劇へ出かけたり、かなりリッチな生活をしています。夫が細かいことを言わないのをいいことに、愛人の土屋と泊りがけで出かけていたりもしています。
この小説が発表されたのが昭和32年(1957年)、当時たいへん評判になって「よろめきドラマ」という流行語ができたほどだったそうです。昼メロのはしりでもあるこの小説、世間の評判は高かったけれど、当時の女流作家たちからは「現実感がない」と不評だったというのはよくわかります。
女は恋に破れた女に同情しながら、そういう敗北者の噂をひろげるのが大そう好きで、恋に勝ってばかりいる女のことは、「不道徳な人」という一言で片付けるだけなのでございます。
男と別れようかどうかと相談しに行って、こう言われてしまう節子。やっていることは、これぞ有閑マダムって感じなのに、頭の中はお嬢様のままなので、どうもやっていることがちぐはぐです。愛人との逢瀬はいけないことだけど止められないという気持ち。夫の子であろうと愛人の子であろうと、妊娠して堕胎することを何度も繰り返してしまう行動。彼女の、よろめきっぱなしの1年間の物語は、これぞ昼メロの王道なのだと思います。
三島由紀夫は一般受けを狙ってこの作品を書いたと言っていますけど、彼自身の心のよろめきもこの作品の中に反映されているような気がしてならないのです。
3001冊目(今年339冊目)
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