『株式会社タイムカプセル社』 喜多川泰 337
仕事も家族も失ってしまった英雄さん。新しい仕事のために面接へやってきた小さなオフィスで、面接官として現れた社長さんは履歴書を丁寧に読んでくれました。そして、彼を採用してくれたのです。
初めて出社した日、年下の先輩である海人さんとともに仕事へ向かう車の中で、初めて仕事の内容を知ります。それは、「10年後の自分に書いた手紙を届ける」という仕事でした。ほとんどの人は郵送で本人の手に届くのですが、様々な理由で戻ってきてしまった手紙をなんとかして本人へ渡すために、どんな遠くの地であっても手渡しで届けるというのが彼らの仕事でした。
白いスーツを着て手紙を渡しに行くと、ほとんどの人が「えっ」と驚きます。そんな手紙を受け取りたくないという人もいます。渡すところまでが仕事ですから、そのまま捨てられてしまってもしょうがないのですが、できることなら一度手紙を読んでくださいと、彼らはお願いするのです。
手紙を書いたのが15歳、10年後の今は25歳、手紙を受け取った人たちは、思い通りの未来になっていない人がほとんどです。でも、10年前の自分の手紙の中にある希望や夢を、そんなこと忘れてしまっていたな、今からでも追いかけ直せるのかな、と思ってくれる人がいる限り、タイムカプセル社の仕事は続くのです。
海人さんが教えてくれた「誰も恨むな、人を嫌いになるな」という言葉をわたしも忘れないようにしようと思います。どんなことがあっても、それを乗り越えていくのは自分、誰かのせいにして諦めるのも自分。どちらの人生を選ぶのかと言われたら、そりゃ諦めたくありませんよ。
話の中に、「学校の卒業時にタイムカプセルを埋めたのだけど、学校がなくなってしまうことになってしまい、その手紙を本人に手渡す仕事もしています。」というものがあり、自分が卒業したなくなってしまうなんて、今まで考えたことがなかったけれど、そういうことまで起きてしまうのが今という時代の悲しさなのだなと思いました。
2999冊目(今年337冊目)
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