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『オーケストラの職人たち』 岩城宏之 24-28

Orchestra

オーケストラの職人たち

岩城宏之(いわき ひろゆき)

河出文庫

 オーケストラがコンサート会場で演奏をするためには、想像以上に多くの人の力が必要なのです。たとえば楽器の運搬です。バイオリンやトランペットのように持ち歩くのに支障がないサイズの楽器は本人が持ち歩くのが普通ですが、コントラバスやティンパニーのように大きな楽器の場合、専門の運送屋さんに運んでもらう必要があります。

 大きくて重い楽器というの代表のようなハープの場合、本体の重量だけで約40kgもあります。ハープを演奏するにもかなり力がいる楽器だそうで、この演奏者は女性が多いのですが、みなさん力持ちなのだそうです。

 

海外のオーケストラでは、練習をコンサート会場でやるのが当然のことなのだ。だから、この「当然」を「理想」というのは悲しいことだ。P88

日本の伝統音楽には檜が合って、西洋音楽には、基本的には松なんだと思います。しかし、たとえば日本で檜を多く使っているコンサートホールの中で、西洋人の巨匠ピアニストのために、ピアノを調整するのは、至難の業です。
だから、0,03ミリというような細かい仕事が必要になって来る。P203

 オーケストラのように大所帯だと、練習場もそれなりに大きなところが必要になります。そして、そこでどんなに合わせたところでそれは技術的な問題しか解決できません。会場となる場所の材質、構造、お客様の人数などによって音が違ってしまうのです。ですから、ホームである会場で練習できるかどうかは、オーケストラにとって大問題なのです。

 夏にマサチューセッツ州で行われるタングルウッド音楽祭で、ボストン交響楽団の演奏を聞いたことがあるのですが、ここはオーケストラと前方100名ほどの席にだけに椅子と屋根があって、その他の人は芝生に座ったり寝っ転がったりして聞くのですが、こういう場所での音作りはコンサート会場とは全く違っていたのだろうなと思います。とはいえ、自然の中で聞くオーケストラは、とても素晴らしかったのです。

 

インドネシアを通って中国大陸に伝わったインドの音楽は、雅楽の起源になり、朝鮮半島を経て、日本で雅楽として完成した。
はじいて音を出すシタールはヨーロッパのギターやハープになったし、日本のことや三味線も中国大陸を経て来たものである。
最近は生の音が聞けなくなったが、夜泣きそばのチャルメラは、キックボクシングの試合前にぺーぺー吹くのや、ヨーロッパのオーボエと、まったく同じものだ。P160

 世界中に様々な楽器がありますが、その元となっているのはインドのものが多いというのは面白い話だと思います。フラメンコの源流はインド舞踊だというし、音楽を通じて世界がつながっているのですね。

 ところで岩城さん、キックボクシング(ムエタイ)の音楽は、試合前だけでなく試合中もずっと流れているのですよ(笑)
 それにしても、オーボエの親戚であるダブルリードの楽器が格闘技のBGMや夜泣きそばの客寄せに使われるとは、不思議ですねぇ。

 

 楽器を運ぶ人、ピアノを調律する人、コンサートのチラシを作り配る人、ツアーに同行する医者、アンコールの話、どれも面白いですねぇ。岩城さんは指揮者であるとともに、音楽が大好きで、音楽に関わる様々なことに興味を持つ人であり、それを文章にするのがとても上手な方であることに驚きました。

 チューニング、音質、バランスなどを聞く耳と、音楽を楽しむ耳の違いとか、クラシック音楽とはなんぞやとか、久し振りに音楽についていろいろと考えながらこの本を読みました。

 学生時代、ブラバンでのチューニングでは音叉を使っていたのですが、某音大で音の高さを目で見ることができる機械でチューニングしたときの驚きは今でも覚えています。今は手軽に持って歩けるチューナーもある時代です。技術の進歩はすさまじいものがあります。

 楽譜の写譜屋さんの話もありましたけど、この仕事は今でもあるのでしょうか?

3054冊目(今年28冊目)

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