『タラブックス』 野瀬奈津子、松岡宏大、矢萩多聞 24-35
子どもに読ませたい本がインドでは手に入らない
タラブックスの核となっているのは、ギータとV・ギータという2人の女性です。インドは多民族国家なので、人々が話す言葉は多岐にわたり、英語とヒンズー語だけではカバーできない世界なのです。それに英語で書かれた本というのは英語の文化を元にしたものです。タラブックスではインドの様々な民族の話を集め、それを絵本にすることで、インド独自の文化を表現しようと考えたのです。
インドには優れた絵を描く人が昔から大勢いました。でも、それは家の壁を飾ったりするためのもので、後世に残そうというものではありませんでした。そういう人たちによって生み出された絵を、物語を、本にしてみたら、世界中から「その本が欲しい」という声が寄せられたのです。
タラブックスはなにもかも手づくりにこだわっているわけではない。機械でできることは機械でやる。人間の手でやったほうがよいものは手でやる。現場は常にそのとき自分たちにできる最善の方法を探りながら、試行錯誤してつくっているのだ。P63
タラブックスの本は紙を作るところから始まります。古布などを原材料として紙を作り、染色する、その作業にはとても時間がかかります。ですから、本が欲しいというオーダーを受けてから、かなりの時間待ってもらうこともあります。
機械化もしていますが、機械ではできないこともたくさんあります。試行錯誤しながら、みんなの知恵を集めて本を作るのがタラブックスのやり方なのです。
タラブックスは印刷職人や少数民族、あるいは元農家と言ったインド社会の弱者ともいえる人たちを見捨てることなく、のびのびと働き暮らす受け皿をつくりだしている。P81
インドでは、どうしてもカーストの問題があります。職人の身分は低いものとされてしまいます。でも世界に認められる本を作っているというプライドを持って仕事をしているし、社員みんながすべての仕事を同じようにするというシステムが、この会社で働く人たちのモチベーションを高くしています。
ギータさんは語る。
「誰もが内面に美しい宝物を持っている。それを引き出し、本のかたちにするのが、私たちの仕事だと思っています」P81
こうやって作られていくタラブックスの本は、誰にも真似できないものです。だって、見た目は真似できても、本に対する思いは真似できませんから。
書店が減っていくことを憂いている今の日本にとって、タラブックスの生き方は1つのヒントになるのではと思います。
大量生産以外にも生きる道がある。これまで誰も見たことがない世界を提示出来たら、それを認めてくれる人がきっといる。わたしは、そう信じたいと思うのです。
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