『まぼろしを織る』 ほしおさなえ 24-88
槐(えんじゅ)は母親を亡くしてから、川越で染織工房を営む叔母、伊代子さんの家で暮らしていました。そこに、事故で心に傷を負ってしまったいとこの綸(りん)も同居することになり、3人での暮らしが始まりました。
綸は両親から、一日も早く前のように大学へ通い、就職活動をしなければいけないと言われ続けていました。でも、自分自身に何をしたいということもなく、苦しみ、言葉を発することが無くなっていました。そんな彼が、叔母の工房で青い糸を見たときに、突然言葉を発したのです。
槐も綸も、自分が何をしたいのか、このまま生きていていいのかがわからずに苦しんでいます。
自分が何者なのか?何をすべきなのか?目標は?と言われて、自分には何もないと思うと、自信が持てなくなります。家族から、これこそが正しい道だと強要されても、それをやりたくないと説明することはとても難しくて、やっているフリをしてしまいがちです。
でも、納得できないことは続かないから、イヤだという気持ちを言えた綸は立派だと思います。
糸を染め、旗を織るという仕事の魅力によって、少しずつ元気になっていく綸、最初は批判的だったけれど、それを見ているうちに何となく彼の気持ちがわかってきた槐。
手作業の素晴らしさが伝わってくる、ほしおさんらしい作品です。この工房のワークショップ、わたしも参加してみたいなぁ。
3114冊目(今年88冊目)
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