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『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』 ファン・ボルム 24-81

Youkoso

ようこそ、ヒュナム洞書店へ

ファン・ボルム

牧野美加(まきの みか)訳

集英社

韓国

2024年本屋大賞 翻訳小説部門 1位

 ヨンジュは「ヒュナム洞書店」を始めました。カフェも併設していて、ミョンジュンにバリスタをやってもらうようになってから、少しずつ店らしい感じになってきました。

 コーヒー豆の焙煎をしているジミの夫の愚痴を聞いたり、人生の目標が見つからない高校生ミンチョルとその母ヒジュの話を聞いたりしながら、みんなそれぞれに悩みを持ってるんだなと感じています。

 「ヒュナム洞書店」で読書イベントをやったりしているうちに、少しずつこの書店の方向性が見えてきました。会社員をしながらブログで文章を発表していたスンウに店で本の話をして欲しいと依頼したりもしています。 店は軌道に乗ってきたけれど、ヨンジュ自身はイライラすることや不安になることが多くて、この不安定な気持ちをどうしているのか分からないんです。でも、周りの人たちを見ているうちに気がついたのです。自分の不安の原因は母親との関係のせいなのだと。

 この本は韓国のお話なのだけど、夫婦関係、親子関係、就職活動、学歴、などなど、どれもこれも韓国も日本も同じなのだなと思う所だらけでした。結局は「正しいと思わされていること」に縛られていることに気づかないから起きる「無用な摩擦」が人を苦しめるのだなということです。

 ヨンジュの胸の中に残る悲しさは、離婚したこと自体よりも、離婚後に母親からかけられた言葉の冷たさによって、より大きくなってしまったのです。 

 

本は、なんというか、記憶に残るものではなくて、身体に残るものだと良く思うんです。あるいは、記憶を超えたところにある記憶に残るのかもしれません。記憶に残っていないある文章が、ある物語が、選択の岐路に立った自分を後押ししてくれている気がするんです。P55

 書店が面白い本を紹介するというのは、本を読むすばらしさを伝えることなのですね。ヨンジュは「ヒュナム洞書店」によって自分の目指すところが何となく見えてきたようでよかったなぁ。

 本を読むこと、誰かと話し合うこと、その両方があって初めて人間は人間らしく生きられるのだと感じました。

 

 ところで、「洞」という言葉が気になって調べてみたら、「洞」は、市、特別市や広域市の区の下に置かれている下部行政単位で、 日本における町、大字等に相当するのだそうです。だから「ヒュナム洞書店」というのは「ヒュナム町書店」という感じなのかなぁ。町に根差したお店になるというヨンジュの夢は叶ってきたようです。

 

 この対談も面白かったです。

「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」著者ファン・ボルムさん×中江有里さん対談

3107冊目(今年81冊目)

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