『ゲンロン戦記』 東浩紀 24-76
ゲンロンは、学会や人文界の常識に囚われない、領域横断的な「知のプラットフォーム」の構築を目指しています。(まえがき より)
ぼくたちの社会では、SNSが普及したこともあり、「言葉だけで決着をつけることができる」と思い込んでいる人がじつに多くなっています。でもほんとうはそうじゃない。ことばと現実はつねにズレている。P164
誰かが見聞きした情報だけでものを判断すると、現実は全然違っていたということがよく起こります。その言葉は、その言葉を書いた人がそう思っただけであり、自分が同じものを見た場合どうなるかはわかりません。現実に自分が見てくるしかないのです。そして、同じものを見たとしても、タイミングによっては違うものとして感じるかもしれません。
じっさい日本の論壇は男性ばかりで、ゲンロンも同じ限界を抱えています。中略 女性はひとりもいません。外国人もいません。その背後には明らかに、ぼくの「ぼくみたいなやつ」ばかりを探そうとする欲望が働いています。
その状況が2019年以降、上田さんの体制になって変わってきました。ぼくがいったん経営から離れたことで、ゲンロンカフェのイベントの企画やゲンロンスクールの講師陣の選択にぼくの好みが反映されなくなりました。社員の提案が多く採用されるようになり、いまではぼくがまったく知らないテーマもイベントで議論されています。P225
人間は、無意識に自分と同質のものを求めようとします。話が合う人、生まれ故郷が同じ人など、似たような人ばかり集まってしまって、多様化とは正反対のグループが生まれてしまうのです。それはゲンロンの理想とは正反対のものだったのです。だからこそ、上田さんという全く違う業界からやって来た女性にリーダーシップをとってもらうようにしたのは、ゲンロンにとって大事な決断でした。
ゲンロンカフェの7年の経験から言えることですが、たとえ少額でも、配信は有料にするだけで圧倒的に炎上しにくくなります。危うい発言もなされています。けれども、ほとんど炎上しません。
その理由は、そもそも発言の揚げ足取りをするようなネットユーザーは一銭も払う気がないので、少額でも十分排除できるということがあります。加えて、有料にすると、公的な場での発言ではなく「私的な空間でのおしゃべり」という印象になるという心理が働いているようです。P246
無責任なネットユーザーによる揚げ足取り、そして炎上というパターンは、無料だからこそ起きるというのは、面白い視点だと思います。少額でも料金があることで、悪意を持つ傍観者との線引きをするというのは、簡単かつ効果的な方法ですね。
「タダより高いものはない」とは、貰う側だけでなく、与える側にも反映されるということは、SNSが普及した今だからこそ、考えておかなければならないことなのですね。
最近、東さんが書かれたものを読む機会が増えて、どんな人なのだろうかと興味を持ち、この本を読んでみました。けっこう突っ走るタイプだし、ご自分でも自覚されていますが「人を見る目がない」ところが、色々な問題の原因となったりしています。でも、とても正直で真面目な方なんだなという印象を強く受けました。
そして、奥さまがほしおさなえさんだということに、とてもビックリ!
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