『ザリガニの鳴くところ』 ディーリア・オーエンズ 24-121
ザリガニの鳴くところ
Where the Crawdads Sing
ディーリア・オーエンズ
Delia Owens
友廣純(ともひろ じゅん) 訳
早川文庫
2021年本屋大賞 翻訳小説部門 1位
米国
アメリカ南部、ノースカロライナの湿地で、買い物をするにもボートで出かけなければならない小屋で1人で生きてきたカイア。ホワイトトラッシュ(貧乏白人)と呼ばれる彼女は、町に住む白人たちからは相手にされず、唯一優しくしてくれたのは給油所のジャンピンとメイベル夫妻だけでした。彼らは黒人で、白人から差別される存在で、同じように弱い立場のカイアを守ろうとしてくれていたのです。
そんな彼女がテイトに出会ったのは本当に幸運でした。彼から文字を習い、本を読めるようになり、カイアの世界はぐっと広がったのです。家を出て行ってしまった母親が遺していった文書を読んで、自分の両親のことなどを初めて知ることもできました。
学校へは1日しかいったことがないけれど、彼女は独学で様々なことを学びました。湿地で生きる動物や草花などのことを深く理解できるようになったのです。
でも、町の人たちからは「湿地の少女」と呼ばれ、別の生き物のように扱われていました。だから、町の人気者であるチェイスの遺体が見つかった時に、最初に疑われたのがカイアだったのです。
南部に限らず、アメリカの田舎はとてつもない田舎です。今から30年ほど前ですが、東部の田舎町のハイスクールを訪れた時、そこの学生から「この町に黒人は住んでいるが、イエローを直に見るのは初めてだ」と、ジロジロ見られました。車で30分ほどの隣町には日本人や中国人が住んでいたのに。
この物語の中で、ある飲食店では黒人は店の小窓からしか買い物ができないとか、裁判所の判事が「自分の法廷では肌の色や宗教に関わらず、だれでも好きな席に座っていい」と宣言したとか、ここが人種差別が色濃い地区であることを強く感じました。
カイアが町から離れた湿地から離れようとしなかったのは、もちろんそこに住む生物を愛しているからですけど、人間を差別することを当たり前だと思う人たちとは距離を置きたいという思いがあったのではと思います。
約600ページをあっという間に読んでしまうほど、とても面白いストーリーでしたけど、ラストは「カイアは湿地でずっと幸せに暮らしました。」で終わってもよかったと思うのですが、作者にとっては、それでは物足りなかったのでしょうか?
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