『わたしは銭湯ペンキ絵師』 田中みずき 24-110
Not 「アート」 But Paint.
これは、みずきさんのお父さんがおっしゃって言葉が気に入って、ご自分のキャッチフレーズとして使っているのだそうです。「芸術じゃないけど絵画」って感じなのかしら。
銭湯の方の要望を聞きながら絵柄を決めることもあるし、完全にお任せってこともあるそうですけど、同じモチーフを使ったとしても、それぞれのお風呂場の形や雰囲気があるから絶対に同じにはならないところが面白いんですよね。
女湯、男湯、共有部分も合わせて、ほぼ1日で描いてしまうということにビックリしてしまいます。冬は気温が低くてペンキが乾きにくいので書き換えの注文が少ないとか、やっぱり富士山のデザインが多いとか、銭湯ペンキ絵師さんとしてのお話はもちろん面白いのですが、それ以外のお話がなかなか考えさせられることが多かったのです。
みずきさんは女性の絵師だから、どうしても「女性の」という肩書がついてしまいます。「女性っぽい絵を描くのでは?」とか「大変だろう」とか、勝手に憶測されてしまうのが困るのだそうです。完成した絵を見ただけでは女性が書いたなんてわからないのに、どうしてなんだろう?って思うのだそうです。
それよりも問題なのは、「妊娠している間仕事をどうするか?」でした。ペンキは溶剤を使いますから、それをどうするか?体調が整わない状態で高所作業は無理とか、考えなけれはいけないことがいろいろありました。
でも無事にお子さんを生み、今も銭湯のペンキ絵を描いているみづきさんです。
「見て盗む」という職人の文化がどのような意味を持つのか考える
今は職人仕事でも学校で教わるというのが普通になっていますが、職人仕事の本質はそれだけでは培われないのではないか?と、みずきさんは考えています。教わることで短時間で技術を習得はできるけど、すぐに辞めてしまう人も多いのです。職人仕事を長続きさせるためには「自分で工夫する」とか、「人の技術を見て盗む」という部分が大事なのだと考えるみずきさんです。
わたしの両親も、職種は違うとはいえ職人だったので、そこはよくわかります。何か新しいことにぶつかったときに、「習っていないことはできない」というスタンスでは先に進めません。自分の頭で考える、すでにできているものを見て、その工程を想像する、誰かに相談する、試行錯誤する。それこそが職人なのです。
銭湯には、やっぱりペンキ絵が必需品です。みづきさん、ずっとこの仕事を続けてくださいね。
3136冊目(今年110冊目)
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