『木』 幸田文 24-156
映画「PERFECT DAYS」の主人公、片山さんが浅草の古書店で買ってきて、寝る前に読んでいたこの本。「木」というタイトルがとても印象的でした。片山さんが毎日お昼を食べる代々木八幡で、毎日木漏れ日の写真を撮っていたくらいだから、このタイトルに惹かれたのかもしれません。
木を愛する幸田さんは、木を近くで見るために様々な場所へ、山の中でも、遠くの島にでも足を運びます。知らないことは何でも詳しい人に尋ねます。「こんなことを聞いたら笑われるかもしらない」と思いつつも、聞かずにいられないのです。一生懸命にメモを取ったり、木の肌に触れたりすると、とても満ち足りた気持ちになります。
木の葉を見たときに、幸田さんは「緑」ではなく「青」と呼ぶのです。「目に青葉山ほととぎす初鰹 」という句を思い出しました。そして、初夏のみずみずしい若葉が目に浮かびます。
山の木を見に行った幸田さんは、山崩れの跡や、倒木などを見て様々な感想を漏らします。その中でも特に印象的だったのは「えぞ松は一列一直線一文字に、先祖の倒木の上に育つ」です。厳しい自然の中で、土の上に落ちた種は育たないけれど、倒木の上に運よく落ちた種だけ育つのだそうです。その、一文字のえぞ松をわたしも見てみたいと思ったのです。
この本には、様々な木が登場します。檜や杉、桜といった、日本に昔からあるものもあれば、外来種もあります。たとえばポプラはマッチの軸として使うために選ばれた木だったのだそうです。今ではマッチを見ることもほとんどなくなってしまいました。
そうそう、桜の話の中で「フサザクラ」という名を初めて知りました。サクラ科ではないのですけど、その美しい色からこの名がついたようです。
映画からこの本を知り、この本から今まで知らなかったことをたくさん知りました。こういう知の連鎖は実に楽しいものです。
この本はページ数はさほどないのですけど、一気に読むような本ではありません。 「PERFECT DAYS」の片山さんのように、寝る前に数ページずつ読むのに相応しい本でした。
3182冊目(今年156冊目)
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