『宙わたる教室』 伊与原新 24-146
定時制高校は、昔は勤労学生が通う場所でしたけど、現在はかなり意味合いが違ってきています。義務教育の時代にいじめなどで学校へ行けなくなってしまった人、一旦学校からドロップアウトしてしまったけど学び直そうとする人、そもそも学校へ通うことができなかった人、他にやることがないのでとりあえず来ている人、などなど。
この物語に登場するのは、勉強する気持ちはあったけど教科書が読めなかった岳人、起立性調節障害の佳純、家族の世話で小学校もろくにいけなかったアンジェラ、高校に行きたかったけど集団就職せざるをえなかった長嶺。そして、昼間部なのに、なぜか関わることになってしまった要。それぞれに問題を抱えているけれど、ずっと誰にも相談できずにいたところは共通しています。
彼らの担任の藤竹が、科学部を作ろうと彼らを誘ったのです。最初は半信半疑だったけれど、一緒に実験をし、それぞれの人生を知るにつれ、これまでまるで違った人生を送ってきた彼らが、本当の意味での仲間になっていくのです。
そして、もう一人大事な先生が保健室の先生。心の病を抱えた生徒が一時の休息のために保健室へやってきます。彼らをそっと見守り、時には傷の手当てをしたりしてくれます。
いろんな意味でギリギリの生活をしている定時制高校の生徒たちに夢を与えてくれた藤竹先生。ちょっと変な人だけど、彼の熱意は意外なところから生まれたのだという秘密が明かされたところで、彼自身相当悩み続けた人生を歩んできたのだろうなと感じました。
日本の教育のイヤな部分に対して抵抗を企てた藤竹先生は、ステキです。そして、いろんな個性がある人が集まることで新しいことができるという考え方こそが日本を変える最初の一歩であると感じました。
今年(2024年)の読書感想文コンクールの課題図書に選定されたこの作品を、現役の高校生はどう感じるのでしょうか?
第一章 夜八時の青空教室
第二章 雲と火山のレシピ
第三章 オポチュニティの轍(わだち)
第四章 金の卵の衝突実験
第五章 コンピュータ室の火星
第六章 恐竜少年の仮説
第七章 教室は宇宙をわたる
3172冊目(今年146冊目)
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