『刑務所しか居場所がない人たち』 山本譲司 24-179
「累犯障害者」が出版されたのが2006年、この本が出版されたのが2018年、12年経っても軽度の知的障害者の扱いはほとんど変わらず、特殊詐欺の出し子などに、いいように使われてしまっている人が多いというのは悲しい事実です。
障害者を引き受けてくれる施設にとって、軽度の知的障害者はお金にならず、なるべくなら重度の障害者に来て欲しいと考えている。というような現実もあるし、軽度の障害って他人からわかりにくいということもあって、彼らの居場所は限りなく少ないのです。
よく考えてみると、軽度の知的障害があるということは、自分のことを上手く説明できないわけですよね。何かの容疑をかけられて、「やったのはお前だろ!」と強く言われたら、どう返事していいのかすらわからないので、気がついたら「はい」と言ってしまったということもあるのでしょう。
一度刑務所に入ってしまうと、その間に家族がいなくなってしまっていたリ、出所した後の身元引受人になってくれる人がいなかったりして、結局はまた刑務所へ戻ることになってしまうことが多いというのは、とても辛い話です。
昔、知人の家が印刷屋で、刑務所で植字(活版印刷で、活字を原稿の指定通りに並べて組むこと)を学んできた人を雇っていたことがありました。彼は植字の腕はとても良かったのだけど、台所に置いてある食べ物を勝手に食べてしまうのが困ると、そこの奥さんが言っていました。どうも悪気はないみたいなので、給料日に、食べた分を引いたよって言うと、それには文句は言わなかったそうです。
この人も、軽度の知的障害だったのかも?って思います。「お腹空いたから、何か食べさせて」って言えば済む話なのに、それができなかったんだろうなぁ。
こういう人が、世の中には大勢いるんだよってことを知ってもらうために、著者の山本さんはがんばってらっしゃいます。みんなの理解が深まることで、彼らが犯罪者になってしまうことを防げるようにと。
この本は青少年向けに書かれていますけど、大人にも読んでもらいたい本です。そして、本当は刑務所に入らなくても済む人たちが、こんなことになってしまう日本のシステムに、目を向けて欲しいと思います。
3205冊目(今年179冊目)
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