『六人の噓つきな大学生』 浅倉秋成 24-201
成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最初は全員で内定のはずだったのに、最終選考直前に「6人の中から1人の内定者を決める」ことになってしまったのです。内定を賭けた議論が進む中、6通の封筒が発見され、個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていたのです。
最終選考まで残ったのだから、それぞれ素晴らしい何かを持った学生なのだけど、彼らはそれぞれに、誰にも知られたくない秘密を持っていて、それが一つずつ暴露されていきます。それを知るのは6人の学生だけでなく、隣の部屋で彼らの様子をモニタリングしている会社の人事部の人もなのです。
「あなたは社会的に許されないことをしていた」という事実をつきつけられて、6人は動揺しながらも、この情報を集め、ここで公表する計画を練った犯人は誰かを探していきます。
この世に、嘘をつかない人はいません。悪いことをしない人もいません。「バレなければいいじゃない」と思える人もいれば、やっぱり良心の呵責に苦しむ人もいます。
ここで暴かれてしまった事実は、確かに悪いことであり、他人から断罪されてしまうようなことだけど、嘘をついてしまった本人だけが悪いわけでもないし、ある意味「冤罪」であるものもあります。でも、それを知られてしまったら困るから黙っていたのは、「嘘をついたということだ」と言われてしまえば、確かにその通りなのかもしれません。
就職活動中であるからこそ学生がついた「嘘」。そして、そんな学生を採用する側の企業がついた「嘘」。そんな嘘はいつかはわかってしまうことなのに、嘘で美化しないと成立しない社会って、何なのでしょうね?
現代の就職戦線はかなり売り手有利になっているとはいえ、この話のようにシビアな競争をする場もまだまだ多くあります。そういう大変な就職競争を勝ち抜いたはずなのに、入社してすぐに辞めてしまう若者が多いというニュースを良く目にします。
これまで勉強することや就職活動という「傾向と対策」で生きてきた彼らにとって、働くということは未知の世界であり、社会とどう付き合っていくのかに関して、自分で考えるしかないという所に戸迷ってしまうのでしょうか。
わたしたちが若いときからは想像もできないくらい、現代の若者が生きていく今という時代は、難しい時代なのかなと思えてしょうがないのです。
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