『本を守ろうとする猫の話』 夏川草介 24-246-3272
林太郎は「夏木書店」という古書店を営む祖父とふたり暮らしでした。ところが祖父が急死してしまったのです。これまで面識のなかった叔母のところへ引越さなければならなくなったのですが、どうも気持ちの整理ができません。
そんな彼の元に、不思議なトラネコが現れ「本を守るために林太郎の力を借りたい」というのです。
トラネコに連れられて行った先には本を粗末に扱う人たちがいました。彼らの行動をいかにしてやめさせるか、それが林太郎に与えられた使命だったのです。
序章
第一章 第一の迷宮「閉じ込める者」
第二章 第二の迷宮「切りきざむ者」
第三章 第三の迷宮「売りさばく者」
第四章 最後の迷宮
終章 事の終わり
本を読めばその本の力が自分にも備わると勘違いする人、長い文章は読まれないから要約するのは人の役に立つと考える人、本の内容いかんではなく、売れる本こそが大事と考える人。そういう人たちによって、痛めつけられている本を助けて欲しいというトラネコの願いは、現在の本が置かれている危機そのものです。
息苦しい日常の中で、誰もが自分のことで手一杯になり、人を思いやる心を失っている。心を失った人間は、他者の痛みを感じなくなる。そうすると、嘘をつき、人を傷つけ、弱いものを踏み台にしても、なにも感じなくなる。世界には、そういうものたちがずいぶんと多くなってしまった。
本は魅力的なものですから、本を愛する余り極端な方向へ走ってしまう人もいます。でも、林太郎の言葉によって、気がついた人は、誤った道から帰ってこられるのです。本当に本を愛する人なら大丈夫。
大切にされた本には心が宿り、そして心を持った本は、その持ち主に危機が訪れたとき必ず駆け付けて力になる
本を読むことによって心が豊かになり、思いやりも生まれる。それこそが人間らしい生き方であるはずなのですから。
もともと読書好きだった林太郎ですけど、益々本が好きになってますね。そして、人との関わり方に違いが生まれてきたことがステキだなって思うラストでした。
3272冊目(今年246冊目)
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