『市川崑と「犬神家の一族」』 春日太一 24-247-3273
私が初めて観た市川崑監督作品は「東京オリンピック」でした。とにかく身体のアップが多くて、スポーツのドキュメンタリーのはずなのに不思議な作品だなぁと、小学生だったわたしは思っていました。大人になってからもう一度見たときに感じたのは、市川崑監督は人間の肉体を美しいと感じ、それを映画にしたのではないかということです。
次に出会った市川崑作品はTVドラマ「木枯し紋次郎」です。それまでの時代劇とは違っていて、土ぼこりが舞う所とか、紋次郎が歩いているところとか、屋外での風景が多かったことを覚えています。そして殺陣が圧倒的に違っていました。それまでの時代劇では、シャキーン、シャキーン、スパッというスマートな感じだったのに、紋次郎では息を切らして走る人の足音はバタバタ、人を切る音もドスッ。泥臭いけど、それが新鮮な感じがしたのです。
そして、この本でも語られていますけど、紋次郎を演じる中村敦夫の姿がカッコいいのです。口にくわえた長い楊枝、「あっしにはかかわりのねえことでござんす」というセリフもカッコよかった。学校で男の子たちが、えんぴつをくわえて「あっしには・・・」をよく真似していました。
そして映画「犬神家の一族」です。これは封切りで観に行きました。普段は洋画しかかからない「日比谷映画」で、立ち見が出るほどの盛況で、わたしは通路の階段に座って観たことを覚えています。
最初のシーンから映像はとにかく美しい。あの有名な逆さまになった死体ですら美しい。恐ろしいストーリーが続く中、加藤武さん演じる等々力警部の「よしっ、わかった!」でホッとする感じが良かったんだよなぁ。
読んでから見るか 見てから読むか
この映画の成功で、角川書店のメディアミックス作戦は進んでいったのです。あのころ、みんなから忘れられていた横溝正史の作品は再評価されるようになり、金田一耕助という名前が一躍有名になりました。
TVでも古谷一行主演で「犬神家の一族」が放映され、なぜか白いマスクのスケキヨさんが注目の的でした。「とっても、スケキヨ!」って流行ったなぁ。
映画版の金田一耕助を演じたのがなぜ石坂浩二だったのかを不思議に思っていたのですが、この本を読んでその謎が解けました。俳優としてだけでなくナレーターとしての技術も高い彼の声が必要だったというのには、なるほどと思いました。
市川崑監督が若い頃はアニメーターであったということに驚き、その時に培われた感性が映画監督として、CMなどの映像監督として活躍する大元にあったというのは、実に面白い発見でした。
3273冊目(今年247冊目)
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