『移動図書館ひまわり号』 前川恒雄 24-258-3284
図書館の明るさは蔵書の新鮮さによるだけではない。イギリスの図書館の貸し出し係は、いつも利用者に何か声をかけている。
「おばあちゃん最近来ないけど、元気?」
「お宅の犬、子を生みましたか?」
どんなに忙しくても、「サンキュー」だけはかならず言う。サンキューは、「ありがとう」ほど重くない「どうも」くらいの感じだが、それを利用者ではなく職員が言うところが、日本とイギリスの違いである。P28
昭和38年(1963年)イギリスへ図書館の勉強に行った前川さんは、そこで大きな気づきを得たのです。日本の図書館は「本を貸してやってる」であり、イギリスでは「図書館へ来てくれてありがとう」。この違いは余りにも大きい。
昭和40年(1965年)、日野市では図書館を作る余裕はありませんでした。そこで移動式図書館ひまわり号を運用することにしました。市内に本を積んだ車を留められる場所をいくつか設置し、2週間に一回巡回したのです。
そのアイデアは成功し、多くの子どもやその親が本を借りに来るようになり、多くの人に読書の喜びを知ってもらうことができるようになりました。
ところが、市の職員や、教育委員会などの人たちはそういうことを理解していません。それどころか知ろうともしなかったのです。図書館長には、役所から任命されてやって来るだけで、司書の仕事がどんなものかも知らないのです。そして「良書を市民に与える」というような上から目線の理屈だけを押し付けようとします。
図書館など無料貸本屋だと揶揄する人もいます。でも、それは現実を知らないから出る言葉なのです。図書館で本を読む習慣を持つようになった人は、普段は図書館で借りていても、この本は自分で持っていたいと思う本は購入します。そして、図書館に本を納めることによって小さな書店の経営が成り立つという事実もあるのです。
そもそも、そういう悪口を言うような人は、図書館にも書店にもいかない人なのでしょう。
もう一つも問題が、図書館とは勉強するところという認識を持った人が多かったということです。図書館とは本を選び、借りていったり、そこで読んだりする場所であって、勉強室ではないという前川さんの持論を、ずっと説明し続けています。大きな図書館ならともかく、小さな図書館の場合、勉強室を作るよりも蔵書の棚を増やしたいという考え方を理解してもらうのは大変なことなのです。
美濃部知事の選挙公約の中に、都内に小さくても数多くの図書館を作るという一項が入っていた。こういう公約をする知事なら、何か具体的な政策をうちだすだろうと思っていたら、図書館振興政策のためのプロジェクトチームを作ることになったと、杉先生から聞かされた。そして、「前川さんもチームのメンバーになってくださるでしょうね」といってくださった。P171
昭和45年と53年を比較すると、区立図書館は68館から105館に、市町立図書館は14館から83館に増加し、人口100人当たりの年間貸出し数は、区立が44冊から216冊へ、私立が53冊から364冊へと急上昇した。P187
ここで美濃部元都知事の名前を見るとは思いも寄りませんでした。美濃部都政は教育に力を入れていました。当時都立高校の学費は1年間で1万円。わたしの母が、このために税金を払っていると思えば安いもんだと言っていたのを覚えています。
ここで強調したいのは、職員がどんな苦労もいとわず働いてくれたのは、何と言っても利用者が喜んでくれたからである。自分のしている仕事の意味が、利用者の笑顔によって示された時、職員は十分の力を発揮する。わたしが最も感謝しなければならないのは、日野の市民である。その上で職員が仕事に打ち込めるためには条件がある。それは職員の身分が安定している事、将来に希望がもてること、つまり非常勤職員ではないことである。(復刊に際して より)
そして、この一文に凍り付いてしまいました。
高市早苗総務相は、2016年11月27日の経済財務諮問会議において、図書館などへの指定管理者制度導入推進となる地方交付税算定方法の変更などを提起、安倍首相は「着実に具体化してもらいたい」と議論をまとめた。地方交付税は政府の方針に従うかどうかは関係なく、地方財政の安定化を図るための精度であるのに、それにまで手をつけて、図書館などの民間委託を進めようとしている。この方針が実行されれば、殆どの図書館は委託され、「ひまわり号」以後築いてきた「市民の図書館」は壊滅するであろう。
日野のある市会議員が言った、「みんなをあんまり賢くしてもらうとこまるんだよなあ」を思い出す。(復刊に際して より)
図書館運営の外部委託も安倍政権によって決められ、今日に至っているとは!
図書館の存在意義を一番理解していないのは政府なのだというのは、余りにひどい!
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