『ボーダー』 佐々涼子 24-263-3289
日本人女性と結婚して配偶者ビザを得たアリは今、日本で貿易の仕事をしている。
「この裁判を通じてたくさんの人に自分のことを知ってもらいました。でも難民申請は認められなかった。日本政府はアフガニスタンにお金を出して援助だけしていればいいと思っている。友達はアフガニスタンに帰りました。仕事のビザを取って日本に来て、家族を呼び寄せた人もいる。でも日本では難民ビザは取れない。日本は変わらないよ。変わると思いますか?」P95
迫害を恐れて逃げる人は、たいてい証拠書類をすべて捨てて移動する。それを持っていることがわかれば命の危険があるからだ。日本ではその証拠が乏しいのを口実に難民申請が通らない。P241
日本人と結婚すれば配偶者ビザはすぐに得ることができます。なのに、難民ビザはいくら訴えても取れないのです。それは何故?
困っている人がいたら助けようということを、普通の日本人なら理解できるのに、なぜか日本政府は理解しようとしないのです。難民としての証拠がないなんて、難癖ばかりつけてくる。難民なんか受け入れたくないんだと日本政府は考えているとしか思えません。
最初は研修制度とそれに続く技能実習制度の二本立てだった。しかし研修制度の名のもとに、雇用契約も結ばず安い賃金で長時間働かせる事例が相次いだことから問題となった。そこで法改正をして2009年、技能実習制度に一本化され、最長三年間、企業と雇用契約を結んで働かせることができるようになった。取材当時は、三年間での帰国が必須、延長は認められなかった。
家族同伴が認められていない労働者が三年以上家族と別居ともなれば、人道上の問題として国際問題に発展する。だが移民は入れたくない。日本で子供を産んで増えられても困る。だから当時(2009年)は三年での帰国が条件となっていたのである。P138
日本人はまだ過去の栄光をひきずっている。
「勘違いしてるんですよ。『経済大国の日本に働きに来られて嬉しいだろう?』『どんな仕事でも期待だろう?』という態度の人がまだまだいる。賃金が安くて、重労働で、日本人が辞めていく仕事に、なぜ外国人だったら喜んで就くと思ってるんでしょうね」P182
日本人は高齢化し、もう外国からの労働力に頼らなければどうにもならない状態になっています。だけど賃金は安く抑えたいという部分に固執しているのでしょうね。そんなことをしていたら、最終的には誰も日本に働きになんか来なくなります。だって、円安の日本よりもっと稼げる国がたくさんあるんですから。
働きたいのに働けない難民がいるのに、働いて欲しい日本から逃げていく外国人労働者がいる。どこまで探っても日本の政策は、他人に対する敬意がなく、ただちぐはぐなだけだった。P202
2023年は、13,823人が難民申請を行い、認定されたのは303人。
例えばシリア難民の認定率(2020年)は、ドイツでは78%、アメリカでは62%、オーストラリアでは89%ですが、日本では、2011年から2020年の間で117人が申請したところ、認められた人は22人。(難民支援協会 調べ)
この数字を見ただけでもわかりますけど、日本は難民は受け入れたくないのです。安い労働力だけ欲しい。でも永住されては困る。無茶苦茶な理屈を振り回すだけで、少しもよくならない難民と移民の問題。彼らを支援する民間団体で頑張っていらっしゃる方々のご苦労を思うと、頭が下がります。そういう人たちのことを無視し続けるように仕向けているのは、いったい誰なのでしょうか?
この本を読んでいて、とてもつらかった。自分の国にいては殺されるかもしれない人が難民認定を申請しても、日本ではほぼ通ることはない。「日本はもっといい国だと思っていた。こんなところだと知っていたら、最初からよその国へ行っていた。」という話をする人が大勢いる。そうやって日本が嫌われていっていいのですか。
最後に、素晴らしいドキュメントを残してくださった佐々涼子さんが、2024年9月1日に亡くなられました。まだまだ、やりたいことがたくさんあったと思います。そう思うと悲しいです。ご冥福をお祈りいたします。
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