『町の本屋という物語』 奈良敏行、三砂慶明 24-257-3283
鳥取の定有堂書店は、奈良さんが作った書店です。こういう小さな書店だと、親の代から続けてきたというような店が多いのですが、ここは違うのです。それまで書店で働いたこともなかった奈良さんが、いろんな人に教えを請いながら、作り、育てた「定有堂書店」は、独特の品揃えと、店で開催されるイベントや、ミニコミ誌などで知られるようになり、本好きの人たちの「聖地」となったのです。
「本が好き」というのはもちろんですけど、「人が好き」というところが、この店を愛してくれる人が増えた根本にあるのだと思います。
(ある図書館の司書から)購入金額の仕切りの関係で、「あ、悪いけど、145円ほどまけてくれない?」と言われた。20万くらいの仕切りの端数だったと思う。「ええ、もちろん」と答えたのだが、「じゃ、代わりにこれあげる」といって同額の入った封筒をくれた。机の引き出しに小銭を入れてある中からくれたのが、すぐわかった。つまり自分の金だったのだ。
図書館だから、本を購入する予算には限りがある。でも、書店が儲からないこともよく分かっている。でも、普通はこんなことはしない。定有堂書店を、奈良さんを大事にしているからこその行動だったのだと思うのです。
本屋には、手に触れた本がその日に動くというジンクスがある。1年間売れていない本を返品しようと棚から抜き出し、表紙を見た瞬間、「あ!とこれは自分が悪かった」と表紙を表に出して置き直す。すると売れる。お客が表紙に思いがけない解釈を発見するからだ。
一冊の本は、人の想いで売れる。内容と醸し出す気配を受けとり、棚に並べる人との微妙な調合の力が、本を手にする読者に何かを訴えるのだ。
こういうジンクスってあるのですね。本が「わたしを見つけてよ!」って呼ぶのかもしれません。そう思うと、どの本にも魂が宿っているという気がしてきます。
43年もの間、町の書店として、そしてこの店の噂を聞きつけてやってきた人たちも多かった定有堂書店。閉店になってしまったのがとても惜しまれます。これからの時代にも、小さな書店が生き残っていける日本であって欲しいと切に願います。
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