『転がる珠玉のように』 ブレイディみかこ 24-308-3334
転がる珠玉のように
ブレイディみかこ
中央公論新社
「婦人公論」2021年4月13日号~2024年3月号、「婦人公論.jp」2022年2月11日~2024年1月12日に掲載されたエッセイをまとめたものです。
コロナ禍の真っ只中、みかこさんの連合いさんはガンを発症して入院していました。更にコロナにも感染し、一時はもうダメかもと思う時もあったのです。そんな絶望的な状況で、みかこさんは既に亡くなっていた連合いさんの弟さんにお願いしました。その後に起こった不思議なことは、何だったのでしょうね?とにかく連合いさんは危機を乗り切り、退院することができたのです。
そして、遠く離れた日本では、みかこさんのお母さんがホスピスに入り、最後に面会した時は、もう認知症でみかこさんのことが分かっていたかどうかもわからない状況だったのに、やっぱり彼女らしい態度だったというところが、みかこさんにとって幸せなことだったのでしょうね。
英国人の女性ばかりの職場で、わたしと彼(ゲイの保育士)はいわゆる多様性を担保するスタッフだったので、ほかの人たちにはわからない部分で通じ合えるところがあった。
保育士時代の記憶が登場するマディラケーキの話は、とても興味深い話でした。英国人にとっては日本も中国も同じような国という感覚だけれど、彼だけは「みかこはこういう人である」という認識をキチンと持っていたところに、シンパシーを感じていたのでしょうね。
自宅で勤務できないのはいわゆるキー・ワーカーの人々だが、いまストを打っているのはそのキー・ワーカーの人々。なので、彼らは、自分たちがストを行っている日は職場へ行く必要がなかったり、別の職種の人たちがストを行ったとしても労働争議で戦っている末端労働者同士の連帯感があるので、「ふざけんな、電車を走らせろ」と怒ったりしない。
キー・ワーカーの人たちはロックダウン中、オフィス・ワーカーたちが家でリモートワークしていたときに、感染の危機にさらされながら外に出た業務をこなし、ヒーローとして崇められた人々だ。だから、こうした人たちが物価上昇に見合う賃上げを求めて闘争をしている時、一般の人々も「困窮してでも働け」とは言えない。自分の生活に多少の支障があっても仕方がないと諦めるのである。ストを支援するということは、不都合を受け入れるということなのだ。
キー・ワーカーは米英語でいう所のエッセンシャル・ワーカー、つまり運輸や医療や交通など、社会の根幹を守る人たちです。その人たちがストを行うことに対して、英国の人たちはとても寛容なのです。だって、自分も彼らも同じ労働者なんだから。
日本ではこういう時に、必ず「迷惑」という発言をする人が多くいます。そう、日本人は「人に迷惑をかけること」を忌み嫌う民族ですから。同じ労働者としての立場で考えるということが、日本には欠けているなぁと強く感じます。
様々なことが起きた2021年4月から2024年1月の話が語られたこのエッセイ、最後のところで能登半島地震の話が出てきました。この時から10か月たった今も、復興は全然進んでいません。日本って、こんな国だったっけ?と思うことが多くなったことを、みかこさんはどう見ているのでしょうね。
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