『まっ直ぐに本を売る』 石橋毅史 24-290-3316
これまで、出版社が本を書店へ届けるには「取次」がそのほとんどを担ってきました。本を配送することも、お金のやり取りもやってくれるし、基本的に委託なので本を返品するのは自由。確かに便利です。
これまでの取次のやり方では、取次が選択した本を段ボールで送って来ます。その中には、その書店では売れないものも含まれているので、段ボールから出さないまま返品する本もかなりあります。書店から注文を出した本の場合、著名な作家の作品などの場合は、小さな書店には希望通りの冊数が届かないこともかなりあります。ですから、それを見越して多めに注文を出し、売れ残ったら返品するというのが当たり前のように行われてしまっているのです。
トランスビューでは、書店から初めて注文があった場合、まずは「直取引での仕入れ」と「大洋社を介した取次経由での仕入れ」を選択できることを説明する。大洋社を介した取次経由の場合は返品不可の買い切り。直取引を選んだ場合は、返品可能な「委託」でも「買い切り」でも構わない。もっとも、掛け率は同じなのだから事実上「買い切り」は存在しない、と言っていい。(太洋社が自己破産したため、現在は青木書店に取次を依頼している)
書店としては、直取引で仕入れた方が利益は多くなるが、売れ残りを返品する場合は、段ボール箱に詰め、数百円の宅急便を使って送り返さなくてはならない。売りきってしまう方が手間もコストもかからないから、自然と、一度の注文するのは売りきれると見越した冊数だけ、ということになっていく。予想より早く売れてしまっても問題はない。追加の発注をすれば、早ければ翌日、遅くても四日後には届くからだ。見込み違いで売れ行きが鈍かったとしても、日数をかけて置きつづけて売りきろう、と考えるのだろう。つまり、返品はほとんどない。P60
書店が注文したものだけを取り扱うというこの方式は画期的でした。でも、1冊ずつ注文を受けていたら儲からないだろうという声もあります。
トランスビューが書店との直取引で卸す注文の内、「一冊のみ」の注文が占める割合は、金額ベースで売上全体の4%しかない。ほとんどの注文は、タイトルや冊数が複数にわたるのである。さらにいえば、書店が一冊だけ注文をする場合、その多くは客注だ。つまり、その本を欲しいという意思をはっきりさせている人が、捨てに存在する。書店にとっても、返品の送料は自分持ちなので、一冊も売らずに返品したら送り返すためにかかる料金分の赤字となってしまう。「一冊」の注文が返品となることは、まずない。P97
それぞれの書店が考えて注文をするようになれば、おのずと無駄なものは頼まなくなります。ですから返品も減るし、儲からないようでいて、こんな風に細かい注文にも答えてくれるのだという信頼感が生まれるわけです。
トランスビューは2013年1月、「トランスビュー取引代行」をしている出版社4社との共同で、全国の書店に宛たダイレクトメールの発想を開始した。封入するのは各社の最新刊などを紹介する注文書付きのチラシで、より活発な受注につなげることが目的である。~中略~2016年3月時点で全国の1400店舗の書店に郵送、参加出版社は35社となっている。
毎月1回、各出版社が新刊書のチラシを持ちより、それをビニール封筒に収める「封入大会」を行っているのだそうです。情報交換などもしながら行うこの作業が楽しみで、自社のチラシはなくても参加する人までいるとか。なかなか楽しそうな感じがしますね。
これまでの取次が作ってきた書店への配本の仕方には、かなり無理があるのは間違いありません。はっきりいって「押し付け」をしています。そして、新しい出版社は取次からは「条件を満たさないから無理」といって取引をしてもらえないという事実もあります。そんな業界に、「こんなやり方もあるんですよ」とやって見せたトランスビュー方式のこと、知れば知るほど面白いです。
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