『ブラック・ボーイ 下』 リチャード・ライト 24-303-3329
黒人たちは白人に対してお愛想笑いをし、丁寧な言葉遣いをし、あなたたちに逆らうようなことはしませんよという態度を見せているけれど、白人が見ていないところでは盗みをしたり、悪口を言ったり、ケンカをしたりしていました。リチャードは、そういう生き方が嫌でしょうがなかったのです。
何一つ盗むでなく、白人の顔を正視したがり、人間らしい口をきき人間らしい行動をしたがるぼくは、彼ら白人にとっては、不気味な存在であった。南部の白人としては、自分たちのために働かせるのには、自分の人間としての価値を、おぼろげながらでも、知っている黒人よりは、むしろ盗みを働く黒人の方が望ましかったろう。
メンフィスへ辿り着いたリチャードは、眼鏡会社に勤めます。本や新聞を読む機会は増えましたが、何か調べ物をしたくても図書館を使うことが黒人は禁じられていたのです。そこで、会社の従業員で一番協力的ではないかと思えたフォークさんに図書館カードを貸してもらえないかとお願いをしたのです。少し時間はかかりましたが、願いは受け入れられました。フォークさん名義で本を借りられるようになったのです。
僕は、自分の読書について、図書館のカードを貸してくれたフォークさんとも話し合うことはしなかった。そんなことをすれば、結局、自分のことを話すことになり、それは、余りにもつらいことだったからだ。
本を読んでこれまで知らなかったことを知るにつれ、白人たちは自由に考え、行動しているのに、自分たち黒人には全くそういう自由がないのだということがわかってきます。そして、自由を得るためにはここにいてはいけない、生まれ育った町よりは、ここの方がましではあるけれど、やっぱり南部ではだめだ、北部を目指そうと決断し、シカゴへと旅立ったのです。
白人でも黒人のことを人間として扱ってくれる人はたまにいましたけど、彼等だって自分に被害が及ぶことはわかっていました。例えばフォークさんだって、図書館カードをリチャードに貸したことが分かったら罰せられてしまうのです。そんな、酷い時代です。
そんなものだって、疑問を持たずに生きていられたらどんなに楽だろうってことをリチャードはわかっています。でも、自分にはそれが無理だってこともわかってます。だから少しでもマシな社会である北部へ向かい、作家として名を成すことになるのですが、最終的にはアメリカから出ていく選択をしたのです。
そこまでしないと、自分らしく生きられないと感じた彼の原点であるこの作品は、読んでいてつらい場面がとても多いのです。でも、リチャードが少しずつ自分というものをわかっていって、少しずつ夢に近づいていく様に心惹かれてしまいました。今の自分に満足しないリチャードの生き方は、実に見事でした。
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