『文系のための数学教室『 小島寛之 24-281-3307
この本は数学が得意ではない人向けですが、それでも数式の所は面倒くさいので飛ばし飛ばし読んでいたのですが、面白いところをたくさん見つけました。「数理論理」は面白いですねぇ。わたしが数学で面白いと思っているのはこの論理の部分なんだなって再発見しました。
ニュースで伝えられたハイジャック犯人の第一声は「If you moce, you shall die.」でした。これを聞いた論理学者は、一抹の違和感を持ったのです。普通、英語の日常会話ではこんな言い回しはしないからです。英語を母国語とするものが犯人だったらきっと、「Don’t move ,or you shall die.」というに違いない。P46
緊迫したハイジャックの犯行の中では「動くな」ととりあえず命令しておいて、「さもないと」という形で理由を接続するのが自然です。そこを悠長に「もしも~したら」などと言っているのは、相当質の悪い英語教育を受けた犯人に違いない。そして、そんな劣悪な英語教育がはびこっている国は、世界中にたった一つ、日本しかないだろう。そう論理学者は推理したわけです。P47
まるでアームチェアディテクティブのようですね。見事な推理です。
世界的な経済学者である宇沢博文が、こう述べました。
「狭い日本の国土をもっと広く使うためには、すべての電車の速度を半分に落とせばいい。そうすれば、国土を今の4倍に使うことができる」
この宇沢の論説は、単なるしゃれや皮肉ではないと筆者は考えます。たとえば、東京都名古屋が2時間で結ばれなければ、東京ー名古屋間の移動中、どこかで中継や休憩が必要となり、そこに自然に宿場町が栄えるでしょう。あるいは、工場や企業も誘致されることになるでしょう。なまじ東京ー名古屋間が短時間で結ばれていると、経済はその2都市に集中し、間の土地は不毛地帯となりかねません。都市計画の観点からすると、高速移動の発明は必ずしも豊かさを約束するものとはいえない。P103
上越新幹線が開通した時、当時勤めていた会社の営業の人が「今までなら新潟出張は1泊できて、おいしい酒や魚を楽しめたのに、新幹線のせいで日帰りができるようになっちゃって、つまんないよ。」と、ぼやいていたのを思い出しました。
こういうことは日本中で起きているのだと思います。短時間での移動を優先する余り、その中間地点が無視されて空洞化してしまったり、都会に人が集中してしまったりしています。日本全体のことを考えるなら、時短だけがすべてではないんです。
(民主主義の基本は多数決だが)科学的真実まで多数決で決めるわけにはいかないP117
それまで正しいと思っていたことと、全く違うことが発見されることがあります。そんなときに多数決で新事実を否定しようとすることが多々ありました。選挙でも、裁判でも、多数決という力に押しつぶされてしまってはならないのです。
わたしたちが科学を研究したり、社会のあり方について議論したり、日常会話の中で自分の意見を述べたりするときに重要なのは、シンタックス(syntax)の方です。物事の信義というのは、わからないことの方が多いし、わからないからこそ議論するわけだし、さらには主義主張や思想信条や生活感によって意見が分かれていたりするからです。世の中でよく、相手の話している内容が、自分の主義主張と合わないことを理由に「君の議論は論理的じゃない」などと相手を非難する人がいますが、このような人は、セマンティック(semantics)な立場に、つまり個々の真偽にこだわるあまり、相手の推論の正しさまでをも否定してしまう混乱状態に陥っているのです。こういう人はシンタックスな立場をキチンと勉強しなければいけないでしょう。P63
「誰かにとっての正義」と「自分にとっての正義」は違うのだということ、それを分かっていない人が大勢いるからこそ「誹謗中傷」や「パワハラ」が生まれるのです。自分の意見だけが正しいという思い込み、過去の慣例に縛られてしまっている思い込み、それが無駄な争いを生んでしまうのです。
この本を読んでたくさんのことに気づきました。数学的思考って面白い!
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