『代替伴侶』 白石一文 24-289-3315
近未来の人口増加で困っている日本の物語。ひとりっ子政策によって、夫婦の在り方がかなり変わってしまっています。
子どもが欲しい夫婦の、どちらかの生殖能力に問題があった場合、それを理由に離婚を申し立てることができるのです。かつての「嫁して三年、子無きは去る」と同じような考え方が復活してしまったのです。
おまけに、夫婦のどちらかが浮気をして子どもができた場合、子どもを生みたいなら配偶者に離婚を求めることができるようになってしまったのです。もし離婚が成立しないなら、子どもは堕胎しなければならないという選択しかなく、ほとんどの配偶者は離婚を認めてしまいます。
その代り、配偶者を失うことの喪失感によって精神的被害が生まれると認定されれば、「代替伴侶」の貸与を人権救済委員会に申請できるのです。かつての配偶者そっくりの「人間型アンドロイド」には、かつての配偶者の記憶を複写します。ただし、自分が「代替伴侶」であるという事と、始動から10年という期限が設定されていることは知りません。
良い家庭を持つことと、良い夫婦でいることは、全然違うことなんだと思う。
かつて愛した人に去られた記憶を持つ人は、代替伴侶を心から愛します。これまでの失敗を繰り返さないように、後悔を残さないようにと。
このシステムを考えた人たちは、たいへんなミスをしていたのです。代替伴侶は、自分がアンドロイドだという自覚がありません。だから人間の伴侶が亡くなった後、その代替伴侶を申請できてしまうのです。それによって、代替同士が仲睦まじく暮らすという皮肉な現象が生まれてしまうのです。
現在の日本は、これとは全く反対の少子化で悩む時代になっていますけど、夫婦間の意識の差というのは余り変わらない気がします。
配偶者がいる時には、それが当たり前、あるいは疎ましいけれどしょうがないと思っていたとしても、いなくなって初めてわかること、離れて暮らすようになってはじめてわかること、そういうことがあるのだと改めて考えさせられた物語でした。
それにしても、自分がアンドロイドだと自覚しないでいて、ある日突然その事実に気がつくって、もの凄い衝撃でしょうね。アンドロイドに人権はないのだろうかと考えさせられてしまいました。
#代替伴侶 #NetGalleyJP
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