『家をせおって歩いた』 村上慧 24-293-3319
東日本大震災をきっかけに「このまま日常を続けていいのか?」と疑問を持ったアーティストの村上慧。発泡スチロールの家を担ぎ、日本国内を移動しながら生活した369日の記録。(書籍紹介より)
夜、家をどこかに置かせてもらう「敷地交渉」を毎回するのですが、主な場所は寺や道の駅の駐車場です。快く場所を貸してくれる所もあれば、規則がどうのこうのといって断られることもよくあります。道で出会って仲良くなった人や、友人のつてで、個人宅の庭や駐車場を貸してくれる人もいます。
福井県と滋賀県の県境にある小さな山あいの町だった。お寺を訪ねると、夜遅くにもかかわらず元気なおばちゃんが迎えてくれた。僕のことをテレビで見たらしく、「クマも出るし、中はいって寝なさい。お寺ってそういうばしょやからな」と言ってくれた。
こんな優しい人もいます。お風呂に入っていきなと言われたり、ご飯をごちそうになったり、朝出かける時に「後で食べな」といっておにぎりとお茶を手渡してれる人もいました。
家を担いで歩いていると、警官から職務質問されることもよくあります。そのたびに説明していたので、段々説明が上手くなっちゃってという村上さん。単に不審だなって職務質問してくる警官もいれば、ここから先、道が狭くなるから気を付けてと言ってくれた警官もいました。
村上さんの姿を見て、声をかけてくる人が結構います。そして、いろんな話をしました。
東日本大震災で仮設で暮らすことになった人の話
「田舎の家って広いじゃない。壁の向うが隣の家だなんてことはいままでなかったか、仮設住宅に暮らしているとノイローゼになっちゃうの。なるよねぇ」
福島で建築関係の仕事をしている人は
「あのかさ上げ工事は住民の為というよりも、雇用を作るためにやってるようなもんだ。だから行政のことはあんまりあんまり相手にしてない。勝手にやれって思ってる」
福井の人は
「安倍首相が経済政策を第一にしているのは、どうなんだろう。親鸞を生んだ国の日本人なら『経済を発展させることだけが幸せではない』と考えるDNAが備わっているはずだ。なのに敗戦後『経済発展こそが幸せのすべてだ』となってしまった。バブルで一回こけてもまだ懲りない」
僕は、十和田湖周辺の温泉街も新幹線の影響で寂れているという話をした。住職さんは、「北陸本線の沿線も酷いもんです。新幹線の通過点になってから一気にさびれてしまった」と言った。聞けば聞くほど、住職さんと僕の問題意識がとても近いことが分かる。僕は美術で、住職さんは仏教で問題を捕らえ、同じ方向を向いている。P231
この本は、村上さんが自作の家をかついて日本全国を歩いた、2014年4月5日~2015年4月8日の記録です。家は発泡スチロール板(厚さ30mm)とベニヤ(厚さ2.5mm)で作られており、重量は15KG。これを担いで毎日歩いていたのは、とにかく体力勝負という所があります。だから、夜は銭湯や温泉を探してなるべくお風呂に入ることを心がけています。
体力的にきついときや、天候によっては、同じ場所に数日とどまることもありました。それと、村上さんが偉いのはちゃんと夏休みも取っていたのです。時々、家を置いて遠くの町へ出張することもありました。そういう気分転換とか、人との出会いとかがあったからこそ、1年間歩き続けることができたのでしょう。
徒歩や自転車で全国を巡っている人たちとの情報交換があったり、時々家を軽トラの荷台に乗せてもらったり、船に乗ったり、家を担いでの旅は、未知のことの発見だらけの旅でした。そこにいかなければわからないことを見聞きすることって、ホントに大事なことなんだなと思うのです。
3319冊目(今年293冊目)
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