『<ミリオンカ>の女 うらじおすとく花暦』 高城高 24-291-3317
ウラジオストクは多民族国家である。1893年の記録では訳4万2000人の人口を数えたが、そのうちこの町の主人公であるロシア人は1万6500人といわれる。しかし、そのうち大部分は海軍、陸軍の兵隊で一般市民の数はわずかだ。そして白人の間ではロシア人よりも非スラヴのドイツ系、スカンジナビア系のこの町草分けの100人ほどが市民のエリート層を形成している。住民の多数を占めるのが居留民たちで、日本人は750人、朝鮮人が2600人、そして最大の勢力がマンザと呼ばれる中国人で訳2万2000人、夏は山東半島の芝罘(チーフー)港からやってくる出稼ぎ労務者でさらに膨れ上がるのだ。
「ウラジオストクから来た女」に登場した、お吟(ロシア名:エリサヴェータ・ギン・ペトロヴァ)が主人公のこの物語は、日露戦争以前の、日本とロシアが良好な関係を築いていた時代の話です。
ウラジオストクという名称は「東方を支配する町」という意味です。ロシアにとって重要な不凍港(といっても、砕氷船が使えるようになってからですが)で、太平洋に面したロシア最大の港であり、シベリア鉄道の終着駅でもあります。ですから様々な人たちが集まって来る場所だったのです。
豊かなロシア人たちはフランス語を話し、ドイツ語や英語を話す人も多くいました。労働力として最も人口が多い中国人が港の仕事のほとんどを担っているので、中国語も飛び交うのです。
今回もイザベラ・バード(ビショップ夫人)の話が登場しました。彼女はウラジオストクへも訪れていたのですね。
日本人は人数こそ少ないのですが、「貸座敷」と呼ばれる女郎屋を営んでいる店が多数ありました。当時はこういう商売も合法だったのですが、経営者は25歳から55歳の女性でなければならないという規則がロシアにはあったそうです。といっても、実際にそれが守られていたわけではありませんが。
今はロシア人(ペトロフ商会)の養女となっていますが、かつては娼妓だったことを揶揄する人もいますが、お吟はそんな過去を決して卑下してはいません。彼女を巡って決闘があったり、朝鮮人参に絡む事件があったり、会社の金の使い込みがあったり、様々なことが起きますが、お吟のきりっとした態度はカッコイイです。
そして、ウラジオストクに住む日本人の多くが長崎出身なので、長崎弁を話す人が多く、函館でも九州や東北出身の人が多いので、それぞれのお国ことばで話す人が多いのが、何とも面白いです。
この本のタイトルになっている「ミリオンカ」とは、中国人居住区を指します。当時、この地区は帝政ロシアの法の届かない闇社会が形成されていたのだそうです。
最後の話で、お吟が久し振りに函館へ行くのですが、そこでウラジオストクと函館がとても似ていると語るところが印象的でした。
3317冊目(今年291冊目)
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