『ピアノを尋ねて』 クオ・チャンシェン 24-363-3389
主人公の男は、子どもの頃にはピアニストとしての才能を見出されていたのだけれど、その夢は叶えられず、今はピアノの調律師をしています。ピアノの調律後、彼が試し弾きをしている様子を見て驚く人が多いのです。でも、彼は今の仕事に満足しています。彼にはピアノの音を聞き分ける才能は、間違いなくあったのです。
いつも調律を頼まれていた女性音楽家が亡くなり、その夫と話をする中で、ピアノのこと、音楽家のこと、などを思う主人公は、自分の過去のこともいろいろと思い出します。
音楽の才能を持つ人は、きっと大勢いるはずです。他の仕事をしながら音楽家を目指す人もいます。自分の才能の方向性や程度を考えて、町の音楽教室の教師になる人もいます。この主人公のように調律師や楽器のメンテナンスなどの仕事へ進む人もいるのでしょう。
自分には大した才能がなかったと主人公は考えていたのでしょうか。でも、どこか苦しい感じがあるのは、もうあの頃には戻れないという後悔もあるのでしょうか。
先日、ピアニストの藤田真央がTV番組でピアノを弾いている姿を見て、「ああ、この人はピアノを弾くことを愛しているし、音楽の神からも愛されているのだ」と感じました。こういう人は本当に稀です。どんなに才能があっても、メジャーになれる人は一握りなのです。
物語りの最初の方で語られた、結婚して間もなく、裕福な夫は高価なスタンウェイのグランドピアノを妻にプレゼントしたのに、彼女はそのピアノより、アップライトのベーゼンドルファーの方を好んでいたという話。この時点でこの夫婦には溝があったんだなという雰囲気がにじんでいます。
調律師として生きてきたけれど、何か忘れ物をしてきたような気がしている主人公の男と、若い妻を亡くした男。取り戻すことができない過去なのに、それを捨てることができずにあがいているような、そんな気持ちが残りました。
3389冊目(今年363冊目)
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