『舌の上の階級闘争』 コモナーズ・キッチン 24-364-3390
ピーター・バラカンさんの「The Lifestyle MUSEUM_vol.864」で紹介されたこの本、「イギリス料理における階級」という実に面白いテーマを扱っています。
「イングランドでちゃんとしたものを食べたければ、一日三回ブレックファーストを食べればいい」と言ったのは、サマセット・モームだそうですが、それくらい他においしいものがないというイメージが出来上がっています。「でも、そんなわけないでしょ」ということで、この本が作られたのです。
基本は目玉焼き、ポークソーセージ、バラ肉ではなく肩ロースを使った脂身の少ないバックベーコン、焼トマト、焼マッシュルーム、そしてベイクドビーンズだ。トースト用の薄い食パンをラードで焼いて添えることもある。かつそこに薄いトーストも添える。ハギスが加わればスコティッシュに、アイリッシュならトーストが重曹を入れて焼いたソーダブレッドになる。ヨークシャーから北では、豚の血と穀物を混ぜたブラックプディングが登場することもある。P118
これがイングリッシュ・ブレックファーストの定義です。タンパク質たっぷりで、今日一日頑張るぞ~という気になりそうな、それはそれはボリュームのある一皿です。
プディングとは、もちろん日本語のプリンの語源だが、お菓子だけではなく、肉屋雑穀やハーブを町詰めにして小麦粉やスエット(牛や羊の油)を混ぜて蒸した料理の総称である。例えば、羊の臓物をハーブや穀物と一緒に町詰めしたスコットランドのハギスのようなものもプディングである。豚の血の腸詰はブラックプディングと呼ばれる。P63
イギリスとアイルランドへ行った時、ブラックプディングが朝食に出てきたんです。ずいぶん黒いソーセージだなぁという見た目ですが、食べるととってもおいしい!当時、プディングという言葉の意味を分かっていなくて、友人と「何でプディングって言うんだろうねぇ?」って話をしたことを覚えています。
ウナギのゼリー寄せ(ジェリードイール)はイースト・エンド(ロンドン市街地東部)のテムズ河畔の食べ物、ということになっている。かつてテムズ川には、ウナギがうじゃうじゃいた。だから産業革命が始まり造船所や倉庫街、船の荷卸で働く肉体労働者人口が増えていたイースト・エンドでよく食べられるようになった。P134
テムズ川にウナギがいたって、凄い話じゃないですか!江戸前のアナゴみたいな感じかなぁ。当時は一番安かったから、労働者向けの食べ物だったんです。そういう食べ物って、きっとおいしい、ぜったいおいしい!
マーマレードは、今でこそ誰でも食べられるものですけど、最初の頃は超高級品だったんだそうです。なぜなら、マーマレードの原材料であるオレンジと砂糖は、イギリスの植民地であった南方から運ばれてきたものだったのです。
そういえば、エリザベス女王の即位70周年のお祝いの時に、パディントンと一緒にマーマレードサンドイッチを食べてましたね。
(ベリー類など)「イギリスの夏の味覚」の収穫は、ポーランド、ルーマニア、ブルガリアやアルバニアといった東欧諸国、モロッコやチュニジアと言ったマグレブ諸国、ケニアやナイジェリアなどのアフリカ諸国からの移民労働力に依存している。労働許可証のあるなしに関わらずだ。~中略~ 他にもプラム、リンゴ、キャベツなど葉野菜やジャガイモなどの根菜類まで、イギリスの農作物生産現場は外国人労働者なしでは作業が成立しないのが実情だ。だから政府は2029年にそれぞれの農産物の収穫期に合わせた季節労働ヴィザを積極的に発給できる暫定措置(Pilot scheme)を導入することにした。P220
イギリスの「農作物の収穫期にだけ発給するヴィザ」も、日本の「技能実習生」も、安い労働力を得るための苦肉の策です。かつては上流階級のために下流階級の労働力を使うというシステムだったのが、外国人労働者を使うというシステムに変わっただけです。でも、その時だけ働いてもらおうという虫のいい話は、いつまでも続きません。季節労働者→移民という流れになるのは間違いありません。
1 ベイクドビーンズ 素朴であたたかいセーフティーネット料理
2 フィッシュ&チップス コロモさっくり臭みなし、それでもしつこい階級の味
3 バンガーズ&マッシュ 飛び散る肉汁の中毒性
4 クリスマスプディング 年に一度の悪魔的幸福感
5 ローストビーフ 「自由」の味と貧者の生活
6 マーマレード パディントンはなぜマーマレードを持っていたのか?
7 イングリッシュブレックファスト 誰もがそれを(朝に)食べるわけではない
8 ジェリードイールとミートパイ 下町の香りの今昔物語
9 ロールモップとキッパー 巻かれて燻される「春告魚」
10 グリーンピースのスープとシェパーズパイ 慎ましやかな「普通」の味
11 キュウリのサンドウィッチとポークパイ ピクニックのお供、でも少し手間がかかります
12 サマープディング 甘酸っぱさと苦々しさと
イギリスでは毎週金曜日は魚を食べる日であるとか、かつて普通の家庭にオーブンがなかったころは、肉をパン屋へ持って行って焼いてもらっていたとか、「イングリッシュブレックファースト」は必ずしも朝に食べるわけではないとか、食べ物を通じてイギリスのことをいろいろと学ぶことができました。
本の中のおいしそうな料理の写真を眺めていると、お腹が空いてしょうがないんですよ。今日は寒いから「ベイクドビーンズ」食べようかなぁ。
3390冊目(今年364冊目)
« 『ピアノを尋ねて』 クオ・チャンシェン 24-363-3389 | トップページ | 『火星の人 下』 アンディ・ウィアー 24-365-3391 »
「食物・喫茶・暮らし」カテゴリの記事
- 『サーキュラーエコノミー実践』 安居昭博 25-39-3435(2025.02.12)
- 『舌の上の階級闘争』 コモナーズ・キッチン 24-364-3390(2024.12.24)
- 『ほんとうの定年後』 坂本貴志 24-332-3358(2024.11.22)
- 『昭和ぐらしで令和を生きる』 平山雄 24-230-3256(2024.08.13)
- 『ネオ日本食』 トミヤマユキコ 24-215-3241(2024.07.29)
「日本の作家 か行」カテゴリの記事
- 『調律師』 熊谷達也 25-11-3407(2025.01.13)
- 『舌の上の階級闘争』 コモナーズ・キッチン 24-364-3390(2024.12.24)
- 『崑ちゃん・鎌田式老化のスピードを緩める最強の習慣!』 鎌田實×大村崑 25-4-3400(2025.01.05)
- 『麒麟模様の馬を見た 目覚めは瞬間の幻視から』 三橋昭、小野賢二郎 24-335-3361 (2024.11.25)
「The Lifestyle MUSEUM」カテゴリの記事
- 『舌の上の階級闘争』 コモナーズ・キッチン 24-364-3390(2024.12.24)
- 『昭和ぐらしで令和を生きる』 平山雄 24-230-3256(2024.08.13)
- 『ネオ日本食』 トミヤマユキコ 24-215-3241(2024.07.29)
- 『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』 川内有緒 230(2023.08.18)
- 『師弟百景』 井上理津子 186(2023.07.05)
« 『ピアノを尋ねて』 クオ・チャンシェン 24-363-3389 | トップページ | 『火星の人 下』 アンディ・ウィアー 24-365-3391 »
コメント