『複雑な彼』 三島由紀夫 25-14-3410
三島由紀夫先生とのご縁は、僕が十八歳のころ、銀座のゲイバーで用心棒をしていた時分に遡ります。ゲイバーというものが、世の中にまだほとんど知られていなかった昭和三十年代の初め、三島さんはその店の常連客でした。
この『複雑な彼』は、三島さんが女性週刊誌「女性セブン」(1966年1月1日~7月20日号)に連載した小説です。そして、主人公の航空会社のパーサー、宮城譲二のモデルになったのが、まだピカピカに若かった二十代後半の僕でした。(安倍譲二氏による解説 より)
先日読んだ「力道山未亡人」の敬子さんが結婚前に日本航空のスチュワーデスで、同期入社のパーサーが安倍譲二さんだったということを知りました。その本の中に登場した「複雑な彼」のことがとっても気になっていました。
「塀の中の懲りない面々」で有名になった安倍さん。実に波乱万丈な人生です。この本のモデルとなった二十代後半までだけでも、パーサー、沖仲仕、バーテンダー、用心棒。ボクサーなど、実に様々な仕事をしています。
三島さんが「楯の会」を作る時、当てにしていた資金が何かの理由でストップしたので、急遽、破格の原稿料で女性週刊誌に初めての連載小説を書いたという、いわく付のこの作品は、良く言えばとても異質で、ハッキリ言えば、三島さんらしいタッチがありません。
急いで小説を書きたかったので、面白いエピソード満載の安倍さんをモデルにしたのは正解だったのでしょうね。あっという間に書き上げたようです。作品が発表される前に、安倍さん本人が原稿を見直すことができたのは、そのせいじゃないかしら。
この小説は映画化されていて、譲二役は田宮二郎、制服姿がカッコいいです。
小説の中で譲二はモテモテなんですけど、それは二枚目というよりも、彼の性格の良さとガタイの良さなんですよね。十代の頃から外国で暮らしてきて、日本人離れした考え方だったのも魅力だったのでしょうね。
パーサーとして働く譲治の背中がステキ!と冴子さんが思う所から、この小説が始まるのですが、この「背中がステキ」が何度も登場するのが気になるなぁ。女性から見て、背が高くてがっちりした背中に惚れ惚れしちゃうというのはよくわかりますけど、実は三島由紀夫さんもそう思ってたんじゃないかしら。
国際線のパーサーとお嬢様の恋物語。最終的には海外まで追いかけていくところは、当時としては画期的な話だったのでしょうね。この連載で女性セブンの売上も上がったんじゃないかなぁ。
安倍さんの本名は直也さんなのですけど、作家デビューするときに、この小説の主人公の名前にあやかって「安倍譲二」にされたそうです。
3410冊目(今年14冊目)
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