『平賀源内 「非常の人」の生涯』 新戸雅章 25-19-3415
子どもの頃に見たTVドラマ「天下御免」で平賀源内という人を知りました。本草学者であり、作家であり、コピーライターやアイデア商品の開発までしていたマルチな才能を持った人だという認識はありましたが、江戸で有名人になる以前は何をしていたのかまでは知りませんでした。
好奇心旺盛で才能豊かな「源内さん」についてもっと知りたいと思い、この本を開いたのですが、火にさらしても燃えない「火浣布」を作ったとか、鉱山の技術指導をしていたとか、源内さんのとんでもないマルチな活躍を知ることができました。
火浣布の産業化には成功しなかったが、石綿発見により源内は年来の主張の正しさを確信した。日本の自然にはまだ大量のお宝が眠っている。これを掘りだすことができれば、外国の物産を輸入する必要がなくなり、国益の増進にもなかうだろう。
こうして源内は鉱山熱に取り憑かれて行った。
鉱山の仕事に魅力を感じたのは、それが国益になるということでした。
当時の本草学は細分化、専門化された近代の学問とは違って、医学や産業と切り離されてはいなかった。田村一門が(朝鮮)人参や芒硝(ぼうしょう)の国産化に携ったように、源内の鉱山開発は決して本草学の本道から外れてはいなかったのである。
かくして源内先生は、あれもこれもと手を出して、いつも「大取り込み中」だったというわけである。
源内さんといえば「エレキテル」ですけど、これは既にあった機械を独学で修復し見世物として使っていたのです。現在エレキテルは重要文化財と認定されており、平賀源内記念館と郵政博物館の2カ所で所蔵しています。先日、郵政博物館でエレキテルを見てきたのですが、箱の部分に草花の絵が描かれており、本草学者の源内さんらしいデザインでした。
菅原櫛という高級な櫛を売るのに遊女の口コミを使ったり、金唐皮紙(和紙に金を張った高級な壁紙)を開発したりしています。「土用丑の日」などのコピーライターとしても有名ですけど、破魔矢も源内さんのアイデアだというのにはビックリ!
ソクノキをオリーブの木と取り違えた間違いは、源内以降の本草学者、さらには明治以降の植物学者にまで継承され、かの「日本植物学の父」牧野富太郎が指摘するまで続いた。
ここで牧野先生まで登場してしまうとは!
安永初年(1772年)40代半ばに達したころの源内先生と言えば、江戸でも一、二を争う切れ者の本草学者。西に東にと飛び回る凄腕の山師。次々にベストセラーを出す人気戯作者、最新の西洋絵画を伝える気鋭の絵師、陶器から羅紗までを扱う産業技術課と、ハードルの低くなった昨今のマルチタレントなど吹っ飛ぶような大活躍だった。
「近ごろ江戸に流行る者、猿之介、志道軒、源内先生」というわけである。
江戸で大人気だった源内さん。いろんなことをやり過ぎて凡人には理解できないというレベルですけど、本人としては「面白そうだからやってみた」という感覚だったのでしょうね。その知識とアイデアが田沼意次にも気に入られたのでしょう。
それなのに、52歳で獄中で亡くなったというのは、余りにも意外な最期です。人を殺して自首したというのですけど、普段から怒りっぽい人でしたが、何かに夢中になるのと一緒で、自分が何をしているのか分からなくなることが、あったのかもしれません。
ああ非常の人、非常の事を好み、行いはこれ非常、何ぞ非常に死ぬる
杉田玄白が墓に書いたこの言葉。天才であり、最後まで人とは違う道を歩んだ源内さんの人生がここに要約されているようです。
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