『それでも彼女は生きていく』 山川徹 25-22-3418
東日本大震災をきっかけにAV女優となった女の子たちがいる。彼女たちにとって3.11とは何だったのだろうか。
天変地異のために家族を失い、家を失い、仕事を失いということが繰り返されてきました。昔だったら、貧しさのために子どもたちを奉公へやったり、売ったりということがありました。この本の著者は東日本大震災後、多くの家庭でそういうことが起きていたのではないかというイメージを持っていたと語っています。
震災後、水商売やAV業界で働く若い女性は確かに増えました。昔よりはそういう仕事に対する抵抗感が低くなっているということもあるかもしれません。でも彼女たちがそういう所で働く理由は、やっぱり家族の為であり、少なくとも自分が生きていく分は自分で稼がなければという気持ちなのです。
とはいっても、親にそんな仕事をしているということは絶対に言えないという人がほとんどです。田舎の小さな町で「あそこの娘はAVで稼いでいる」なんてバレたら、家族がどんなにつらい目に合うかということがわかっているからです。
仙台の風俗店が営業を再開し始めたのは、ゴールデンウィークの頃からだった。
復興に携る業者、ボランティア、自衛隊員、そして被災者・・・。
客が怒涛のように押し寄せてきた。
もちろんセックスのためにやってくる客が多いのですが、そういう人だけではありませんでした。自分の体験を話し、女の子に抱きしめてもらって泣く男たちがかなりいたというのです。家族や友人を失くして、自分だけ生き残ってしまったと思う被災者。遺体捜索をしていて、空しさに襲われる自衛隊員。外の世界では気を張っていて、本当の気持ちを吐き出す場所がない人が大勢いたのです。
悲しいとか、つらいとか、寂しいとか、そういうことを話せる相手がいない人が大勢いて、風俗店がそういう人たちの心の拠り所になっていたなんて、思いもよりませんでした。
遺体がみつかって「よかったね」と笑い合えるのは被災者同士だけで、外から来た人にはこの感情はわからないだろうなという言葉にも、重いものを感じました。遺体と対面することで、悲しいけれど事実だと踏ん切りがつきます。でも、遺体が見つからない人は、ずっとずっと宙ぶらりんな気持ちのままで生きていかなければなりません。それは、余りにもつらい。
復興という言葉をマスコミや役所は言いたがりますけど、自分が生まれ育った土地がなくなってしまった人にとって復興ってあるのでしょうか? それまでと違う生き方を選ぶということしかできない人たちに、「頑張れ」とか「復興」とか言うのは、他人のエゴでしかないと思えてしょうがないのです。
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