『ハザマの思考』 丸山俊一 25-26-3422
「欲望のサブカルチャー史」をいつも視聴しているので、この番組を制作している著者のこの本に興味を持ちました。
メインカルチャーがあって、それに対してサブカルチャーが生まれてきたはずなのですが、今の日本では何がメインなのか分からないという混沌とした状態になっています。
安全、安心に重きが置かれる日本社会にあって、日本人は信頼という行為が苦手で、リスクを取りながら人を信ずることに賭ける術をアメリカ人の方が知っているというのだ。P86
「みんなちがって、みんないい」という多様性を認める世界は、確かに理想的な世界です。でも、そこに不安を感じる人がいるのです。無理やり個性的でなければならぬと思い込む人。自分の推しはこれだ!というものにのめり込むことで、現実から逃れようとする人。でも、普通の人として世間で認められたいと思う人。それぞれが、不安でしょうがないのです。
「自分の頭で考える」というその感覚自体が、少しずつ失われていく世の中なのだ。P45
世の中にはルールがたくさんあります。その中には訳がわかるものも、訳がわからないものも混在しています。いちいち考えていたらやってられない、面倒くさい、考えてみてもよくわからない、考えるだけ時間の無駄、そういう人が増えました。タイパ重視、ファスト教養で凌いでいこうというのが、現代のトレンドなのでしょう。だけど、最終的には「自己責任」という恐ろしいものが襲ってきます。そこから逃れるためには必死に考えなければならないのです。
無意識に求める「連帯感」、「一体感」、「所属しているという感覚」、それは仕事やスポーツなどでチーム一体となることでの勝利など輝かしい結果を生むこともあれば、時に国一丸となって戦争に突き進むような恐ろしい排除の論理を生むこともある。裏を返せば「連帯感」という精神状態は、健全な競争の場でも戦いの場でも同じ心の構造から生まれている可能性があり、安易にすべてを否定できない状態であることを示唆している。
群れを成したくなり、一緒でないと不安に感じてしまう性質、誰もが持つ、人間の根本にあるそれば、時に光となるが、時に大いなる「悪」も生み出してしまう。P199
社会生活をしていれば、何かのグループに属すことになります。クラスメート、バイト仲間、職場の同僚、近所の人、家族や親戚、趣味の友達、ネット上の友達、勉強会など、そういう何かに所属しているという安心感、連帯感が曲者なのです。
そのグループの方向性に引っ張られていく思考が、自分が本当に求めていたものなのか、それとも押し付けられているものなのかが、曖昧になったままで過ごしてきて、ある日突然「それがとても恐ろしいものであること」に気づくこともあるのです。
サブカルチャーの魅力とは、世間の常識とは関係なく、自分の欲望に正直であるということだと思います。リアルの世界は暗くても、自分がのめり込んでいるサブカルチャーの世界では生き生きとしていられる。たとえ少数で会っても自分の発言に同調してくれる人がいる。そこが魅力です。ですから、サブカルチャーが肥大化していったら、そこからこぼれていく人もいるはずです。そして別のサブカルチャーを生みだすのかもしれません。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。」
だからこそ、サブカルチャーは魅力的なのかもしれません。
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