『まいまいつぶろ 御庭番耳目抄』 村木嵐 25-2-3398
障害があるために言葉を誰にも理解してもらえなかった家重を救ったのは、唯一彼の言葉を聞き取ることができた忠光でした。でも、通詞として家重のそばにつく忠光が語るのは本当に家重の言葉なのかと疑ってかかる人が多くいました。そんな否定的な目で見られていることを分かっていた家重と忠光は、協力し合い、できるだけ疑いがかからないようにしてきたのです。
忠光は家重との毎日について、家族にすら何も話していませんでした。それはトップシークレットなのですから。あらゆる意味で疑いをかけれないように付け届けも一切受け取らず、清廉潔白な生活をしていたのです。
「二間先の音まで聞こえるが、上様の言葉だけ聞き取れない。せめて、お心は解したい--。」
障害者であったとはいえ頭脳明晰な家重、その言葉を伝えることに命を賭けていた忠光。吉宗のお庭番であった万里(青名半四郎)は、そんなふたりをずっと見守ってきました。
普通のお殿様だったら、ここまで大変なことはなかったのでしょう。でも、九代将軍として家重は立派な仕事をしたのです。そして、この本の最後の方で田沼意次が登場します。彼を抜擢したのは家重でした。この後の時代、田沼意次は商業を重視し、経済が活性化する策を打ったのです。
家重は自分が動けない分、優秀な人に仕事を任せるということに賭けていたのではないでしょうか。自分の口となってくれていた忠光が亡くなって、後を追うように亡くなった家重。このふたりは主従関係というよりも、ふたりでひとりという気持ちで生きていたのではと思うのです。
3398冊目(今年2冊目)
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