『愛と忘却の日々』 燃え殻 25-40-3436
「おっぱい足りてる?」六本木の繁華街からちょっと外れたところで、キャッチの男から元気にそう声をかけられた。P22
日本文藝家協会編「ベスト・エッセイ2024」に選ばれたこの文章、何だか面白い。頼まれたら嫌と言えない気弱な燃え殻さんだからこそ、元気に声をかけてきたキャッチの男に思いのたけをぶちまけて、仲良くなったんだろうな。
打合せが続く毎日。原稿の締め切りに追われる毎日。それなのに仕事でも、飲みのお誘いも、いつだって嫌と言えない自分。そういえば、子どもの頃も同じようなことしてたなと思い出したり、そんな自分の性格に困っているような感じがジワジワと伝わってくる。
そんな中で、とっても心に残ったのが、子どもの頃にいじめにあって死にたいと思っていたという話。夕飯の支度をしているおかあさんに抱きついて「死にたい」と叫んだら、おかあさんが手にしていた包丁を畳に突き立てて、「おかあさんをこれで刺して殺しなさい。そのあと、あなたが死になさい」と言われたという。とっさにこんなことを言えるおかあさんは凄い!
その後、「自分のためじゃなくて、誰かのためでいいから生きなさい」と言われ、それをずっと守っている燃え殻さん。よかったね、そんなおかあさんの子で。
「今週の連載読みましたよ」とか「ラジオ聞きましたよ」って言われることがあるけれど、「それ、僕じゃないけど」と言わせてもらえないことがあったり。アイドルの女の子がもらったぬいぐるみの中から盗聴器を取り出して、「こういうのよくあるんですよ」と聞かされて驚いたり。
燃え殻さんの日常は驚きと諦めと疲れがないまぜになって、最後は笑っちゃう。
こういう文章が書けるって、才能だよねって思う。
そして、大橋裕之さんが描く挿画とマンガに癒される。
3436冊目(今年40冊目)
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