『アジフライの正しい食べ方』 浅田次郎 25-45-3441
今や大御所となった浅田氏ですけど、「勇気凛凛ルリの色」から愛読しているわたしにとっては、とてつもなく面白いエッセイを書く人なのです。JALの機内誌に連載されているものですから、基本は「旅」なのですが、この本に収められている文章が書かれた時期は「コロナ禍」真っ只中! 旅に行けないのに旅に関するエッセイを書くなんて大変そうって思うでしょ。ところがところが、「そういうストックは充分にある」というのですから、心強い限りです。
旅も好きだけど、食べるのも大好きである浅田氏ですから、思いがけない話が飛び出します。中でも秀逸なのが「ごちそうさま」、神保町のキッチン南海が閉店になるという話を聞いて、すかさずカツカレーを食べに行った下りを、「天切松 闇語り」ふうの文章で書かれています。これはもうタマラン、松蔵さんの江戸弁の切れがいいねぇ! という感じです。
この本のタイトルとなっている「アジフライの正しい食べ方」もまた、実にすばらしい。ある時、編集者と3人でアジフライ定食を食べることになって、アジフライに浅田氏は醤油で、編集者1はソースで、編集者2はタルタルソースで、となったのです。浅田氏はそれまでアジフライには醤油の一択だったので、人の嗜好とはかくも様々なのかと実感したのです。でも、最期に登場したマッサージ師の回答に、痺れてしまった浅田氏。ああ、自分はまだまだだ。
都心の再開発を唱える人々は、このたかだかの距離感、わずかな歴史を見誤っているのではないかと思える。少なくともここで論じられているのは今日の利益で会って、必ずしも未来の国民に資するとは思えない。私は再開発という美名のもとに、父祖が遺してくれた東京の緑がこれ以上損なわれることを潔としない。(東京の緑 より)
神宮の森の話、ここでは真面目な浅田氏が登場します。坂本龍一氏と同い年ということもあり、神宮の森に象徴される東京の緑に対する再開発者たちの行いに関して、深く憂いているのです。
東京は大都会でありながら緑豊かです。それを実感しないのは、それが当たり前の風景になってしまっているからなのでしょう。何でもかんでも東京に詰め込んで、他所の土地から富を奪おうとしている再開発を、このまま放っておいたらどうなるか? 想像力のない余所者に任せておいたらとんでもない事になってしまうと思うのは、故郷が東京である浅田氏だからこそです。
そんな真面目な話も取り混ぜながら、浅田氏のエッセイはやっぱり面白いわ!!
3441冊目(今年45冊目)
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