『声めぐり』 齋藤陽道 25-85-3481
陽道さんは、ろう者であるがゆえに、いじめられたり、笑われたりしたことがたくさんあります。彼のことをちゃんと知っている地元の小中学校であろうと、社会人になってからも、それは続いていました。だから、彼の心の奥底に「聞こえないというだけで、なぜこんな目に合わなければならないのか?」とか、ろう者と関わる生活をしている人なのに「手話を覚えようとしない人がいるのはなぜか?」という思いがあったのです。
ある時、50人ほどのろう者と、手話ができない聴者が1人混ざっての飲み会がありました。最初の頃は聴者との筆談で会話していた人たちが、少し酔っぱらってくると、面倒くさくなって手話だけで話をするようになって、聴者と会話をする人がいなくなってしまったのです。
もしかしたら彼には何か障害があって手話を覚えられなかったのかもしれないと気づいた時、それまで「手話を覚えないからこうなるのさ」と思っていた陽道さんは、自分はなんとヒドイことをしたのかがわかったのです。
こういう「のけもの」扱いって、やっている方は気づかずにやっていることが多いのですよね。わかっていたとしても、「できないんだから」「知らない方が悪い」的な言い訳で見ないふりをしてしまっていることが多いのです。この辺りを読んでいて、胸が苦しくなってきました。「ああ、わたしもやってたな」と。
障害者プロレス「ドッグレッグス」に選手として参加し、様々な障害を持つ人と出逢い、触れ合い、殴り合い、それぞれが背負ったものを感じていくところも目からウロコでした。「いいこちゃんの障害者」ではない、リアルな人間としてのあり方を感じたことで、陽道さんはこれまでと違う人になったような気がします。
ほぼ同じ時期に出版された「異なり記念日」と、この「声めぐり」は、異なる出版社で、異なる版型でありながら「同じ風が通う想定にしてほしい」という陽道さんの希望が叶えられたものです。
写真家、陽道さんが考えていること、発見したこと、人とのつながり、そういうものが、この本の中にたくさん詰まっていました。
障害者プロレス「ドッグレッグス」の主催者、北島行徳さんの「無敵のハンディキャップ 障害者が「プロレスラー」になった日」も読んでみたくなりました。
3481冊目(今年85冊目)
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