『ふたり暮らしの「女性」史』 伊藤春奈 25-81-3477
親子や姉妹でない女性がふたり暮らしをしていると聞いて、他人はどんな想像をするでしょう? 今の時代なら、仲のいい友達だから? 仕事を一緒にしているから? というような感じかもしれないし、恋人同士だと言っても理解してくれる人が増えたけど、100年前にはさぞかし周りからの好奇の眼にさらされていたのでしょう。
だから、女性ふたりで暮らすという選択をした人たちには、相当な覚悟があったのです。そして、そうしなければ自分たちが求める仕事や生活を維持できなかったのだということを、これまでわたしたちが知ることができなかったのは何故なのかを、知らなければいけないのだと思うのです。
序章 ふたりだけの部屋で生きる
第1章 語られなかったふたり暮らし 人見絹枝と藤村蝶
第2章 帝国日本とふたり暮らし 飛行士たち
第3章 主従関係とふたり暮らし 五代藍子と徳本うめ
第4章 語り継がれるふたり暮らし 斎藤すみと芳江
人見絹枝さんという素晴らしいアスリートのことを知っている人がどれだけいるでしょうか? 大河ドラマ「いだてん」で初めて知ったという人も多いのではないかしら。彼女は、1928年アムステルダムオリンピックの陸上競技・女子800mで銀メダルを取った、日本女子アスリートの草分け的な人です。
世間からは「女性ランナー」という物珍しさで注目され、期待ばかりかけられたけれど、海外への遠征費などは、ほとんど自力で捻出していました。人見絹枝はメダリストとなった後、女性アスリートたちのためのお金を集めるため、そして理解を深めるための講演活動などを年に200回も行っており、過労と心労で倒れ、わずか24歳で亡くなりました。
藤村蝶は、絹枝をあらゆる意味でサポートし続けました。そして、彼女が亡くなった時に遺骨の一部を譲り受けています。そして、人見絹枝と藤村蝶は同じ墓に眠っています。
近代化のためジェンダー化を推し進めたこの国では、「国民」にも日本人男性 ー 植民地男性 ー 日本人女性 ー 植民地女性 といった序列があった。P104
これはショックですね。植民地の人たちを下に見るということの愚かさもあるけど、その人たちより女性の方が下だという序列があったとは、愕然とする事実です。
第4章で、競馬騎手になろうとした斎藤すみについて語る吉永みち子さんの文章も、読んでいてつらいことの連続です。
女の分際でつまらないことを考えるからそんな末路になったんだ、というね。(すみの記事に書き手の)そういう考えが透けて見えたので、凄く嫌だったんです」「色眼鏡で見られた数行のすみさんじゃない姿を、競馬が好きな人には知っておいてほしかった」。風紀を乱すという決まり文句も、女性騎手に負けるのが嫌だったからではないかと吉永さんは分析する。吉永さんが知る女性騎手が、勝てそうな馬に乗るとコーナーで妨害されることがあると話したことがあったそうだ。ーー「男は女に負けたくない、負けるとみっともないと。一回負けちゃえば楽になるのにって思うけどね(笑)そういう、男の沽券みたいなものがあるんですよ。でも、女性騎手が増えてくるとつながりもできる。だから私も、少しずつやっていくしかなかった」。P213
女であるだけで差別される。まずは業界へ入る段階で「女人禁制」だと言われる。何故だと聞けば「穢れる」「風紀が乱れる」「女には無理だ」と言われる。わずかなスキマを見つけてその世界へ入り、必死に頑張る女性たちは、髪を短くし、胸が目立たないようにさらしを巻き、男性の服装をする。すると「男装の麗人か」と揶揄される。
「虎と翼」のヨネさんと同じ、そこまでしなければ生き残れない世界です。そんな無理して仕事なんかしてないで、普通の女に戻って嫁に行けという同調圧力は余りにも強かったのです。そして、100年後の今も、そこはちっとも変っていません。
この本に登場する「ふたり暮らし」する女性たちは、きっと「同士」という絆で生きていたのだと感じました。だって、どうしようもない差別と闘うのに、ひとりでは辛過ぎます。同じ思いを持つ人がそばにいてくれるから、耐える力が湧いてきたのではないでしょうか。
今は、昔よりもマシにはなったけど、女性の権利ということを考えると、まだまだなことばかりです。家事労働は軽んじられたままだし、家制度の呪縛から逃れるために都会へ行く女性は増えるし。選択的夫婦別姓だって、いつまで待たされるのか分からないし。百年経っても基本的なところは変わらないのだなと、ため息ばかりが出てしまうのです。
#ふたり暮らしの女性史 #NetGalleyJP
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