『通言総籬・仕懸文庫』 山東京伝、いとうせいこう 25-60-3456
通言総籬(つうげんそうまがき)は吉原、仕懸文庫(しかけぶんこ)は深川、いずれも山東京伝が書いた話です。吉原は幕府公認の岡場所なのでハッキリと吉原の名を出すことができますが、深川の方は非公認の場所なのでは地名をそのまま言うわけにはいかず、鎌倉あたりの話のように書いています。とはいっても、分かる人が読めばそうでないことはすぐに分かってしまいます。
この本に登場するのは、岡場所へやってくる人、そこで働く人。そんな人たちの会話がシャレたおした表現のオンパレードなのには驚いてしまいます。「べらぼう」でも「ありがた山の寒がらす」とか「腐れ外道の亡八」とかってセリフが飛び交ってますけど、会話の中に符丁(ふちょう)とか洒落(しゃれ)とかがとにかく多い!
たとえば「坊八」を調べてみると、儒教の八つの徳「仁・義・礼・智・信・孝・悌・忠」を忘れた者、つまり遊女屋の経営者もそうだし、遊女を買いに来る客たちも指しています。
業界の人が使う符丁は、よそ者に話の意味をわからせないという意味もあるし、特定の人や店の名などをハッキリ言えないから、似たような語呂の言葉を使うとか、小指を出せば女を意味するとか、会話の中にいろんな仕掛けがあるんです。
仕懸文庫というのは女郎、つまり深川で言う子どもの着替えを入れて担当の男に持たせる小箱のことだ。仕懸という言葉自体が着物をさすことは、ここの通なら知っているはず。それを文庫に入れて持ち歩かせるのも縄町に限る風俗である。
ゆえにこの本の題名にもしてあるわけだ。(本文より)
「子ども」という言葉が女郎を指すとはねぇ。非公認の岡場所だからこその、表現だったのでしょうか。「辰巳芸者」という呼び方は、深川が江戸の南東(辰巳)の方角にあるからとか、洒落た人たちの会話は覚えることが多くてしょうがない(笑)
山東京伝の作品には多くの読者がついているので、出版すればあっという間にベストセラーになっていました。田沼意次の時代には自由に表現できていたのに、華美で享楽的な風俗を描く文学作品や浮世絵を快く思っていなかった松平定信が出した出版統制に引っかかり、1791年(寛政3年)に山東京伝は手鎖50日の刑、出版元の蔦屋重三郎は財産の半分を没収されるという厳罰を受けてしまったのです。
でもね、蔦重は「命を取られたわけじゃなし、このくらいのことに負けちゃいられねぇ!」という感じだったようで、山東京伝に「また、面白い本を出そうよ!」と背中を押していたのです。
現代語訳をしたとはいえ、単語の説明がとにかく多いんです! たとえば「三方」なんて、今でも使ってるけど名前を知らない人の方が多いです。「鏡餅やお月見の団子を乗せる台」といわれて、やっとわかる人がほとんどじゃない?だから、着物の説明なんかが出てきたら、1ページの半分くらいが説明文になっちゃうんだけど、本文よりこっちのほうが面白かったりするのよね。
いとうせいこうさん、ありがとうございます。おかげで楽しく読み通すことができました。
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