『山の上の家事学校』 近藤史恵 25-99-3495
幸彦さんは離婚して1年、荒みがちな彼の生活を憂いた妹から、男性のための「山の上の家事学校」へ通うことを勧められます。ちょっと抵抗してはみたけれど、やっぱり気になって見学へ行きます。そこには、様々な年代の男性がいました。ちょうど休暇も取れるし、寮もあるというので、しばらくこの学校で学んでみようかという気になりました。
同じ日から入校した猿渡くんは、大学へこれから入るという18歳。この学校へ入るのはイヤイヤなのだという雰囲気に溢れていました。
「そう、つまり否応なしに子どもでいられなくなる人と、いつまでも子どもでいられる人がいるってことなんでしょうね」
もしかすると、鈴菜と結婚生活を続けていたら、ぼくはいまだに子どものままだったのかもしれない。消え入りたい気持ちになる。
幸彦さんが妻と離婚した最大の理由が、自分が家事に貢献してこなかったからだと思っています。ですから、この学校で少しでも家事について学べればと思っています。猿渡くんの態度を見ていると、かつての自分を見ているようでツラいのです。そして自分は、彼に意見をできるような立場でもないと思うこともツラいのです。
最初の授業で、花村校長から聞いた言葉を思い出す。
「家事とは、やらなければ生活の質が下がったり、健康状態や社会生活に少しずつ問題が出たりするのに、賃金が発生しない仕事、すべてのことを言います。多くが自分自身や、家族が快適で健康に生きるための手助けをすることで、しかし、賃金の発生する労働と比べて、警視されやすい傾向があります」
校長はひとことも、誰かへの愛情だとは言わなかった。
結婚していたころ、家事は妻がやるもので、自分はヒマがあったら手伝うという程度の認識だった幸彦さん。それが自分の勝手な思い込みだということが少しずつわかってきました。たまに料理を作っても、後片付けはしないし、ゴミ捨てなんて自分がやる仕事じゃないって思ってた。仕事で帰りが遅くなるときに、夕食はいらないという連絡すらサボっていて、それでいいのだと思ってた。そういう自分を妻は理解してくれているのだと思っていたけど、実際は違っていた。自分にそんなことを期待しても無駄だと思われていたのだと、今頃やっと気づいたのです。
この学校で教えてくれるのは、料理、掃除、洗濯といった技術だと幸彦さんは思っていました。でも、それだけじゃないということを校長は教えてくれました。買い物に行って、あれを買おうと思っていたものがなかったり、高かったりすることがあります。そういう時に臨機応変に量を変えたり、品物を変えたりということ、それも家事なのだということを始めて知ったのです。
この物語を読んでいて、男性が家事をできないのは「男性は家庭科の授業を受けていなかったから」という言葉が何度も出てきたのですが、わたしには、それだけが理由ではないという気がするのです。
わたしの実家は商売をしていたから、買い物に行ったり、お客さんにお茶を出したり、洗濯物を干したり取り込んだり、ということを小学生のころからやっていました。料理も裁縫も編み物も、母から習いました。だから、家庭科で何かを教わったという感覚はありません。
学校で教わるかどうかよりも、家庭でどれだけ実践しているのか?の方が大事だと思うのです。家事は見ているだけだと簡単なように見えるけど、実際にやってみると手順やコツなどを身につけていないと、とてつもなく面倒くさいことが多いのです。そういうことを実体験することこそが家事に対する認識を変えることだと思うのですが、面倒くさいことを言う人ほど実践していないのが現実ですよね。
最期の方で、幸彦さんは妹と話をする中で、自分たちの実家でもジェンダーギャップがあったということに気づきます。別れた妻と娘とこれから付き合っていく中で、そういうことはないようにしていかなければと思えたのは、彼にとってとても大事なことだと思います。
「山の上の家事学校」のようなところは、実際にあるのでしょうか? そういう場所があったら、わたし編み物と裁縫を教えたいんだけどなぁ(笑)
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