『なぜヒトだけが幸せになれないのか』 小林武彦 25-111-3507
生物学的な価値観から考えれば、死から遠いほど幸せということになります。年寄りより若い方が幸せだし、お腹が空いているより、お腹いっぱいの方が幸せということになります。でも、それですべてが納得できるわけではありません。貧乏な若者より、お金持ちの年寄りの方が幸せじゃないかと考える人もいます。いやいや、お金よりも健康の方が大事だという話にもなります。
アリとキリギリスを比較したら、長生きできるのはアリだから、アリの方が幸せなのだとわたしたちは教わってきました。でも、最近では、キリギリスのように自由に生きる方が幸せなのだと考える人も増えてきました。
生物学の常として固定数変動はよくあることなので、ヒトの数が減ること自体は大きな問題ではないのですが、「減る理由」が問題です。信頼できる人間関係の減少は、確実に死との距離を近くします。つまり「幸せ」ではないのです。P150
テクノロジーに支えられた「便利さ」が、死からの距離を見えなくし、同時に「幸せ」も感じにくくしています。生きていることが当たり前になり過ぎてしまっているのです。実際に、豊かなはずの先進国ほど自殺が多く、その数は増加傾向です。物質的な豊かさ、便利さは必ずしも「幸せ」とは限らない、どちらかというと逆ですね。P151
戦争とか病気とか、死と向き合う人は「死にたくない」と考えます。ところが、そういう恐怖がない、豊かな世界に住んでいる人ほど自殺数が増えるのです。かつてはみんなで力を合わせて生きてきたのに、テクノロジーの進歩によって信頼できる人間関係が壊されていくからだというのは、何という皮肉なのでしょうか。
歳を取ってから連れ合いを亡くした後、しばらくは落ち込んでも、女性はすぐに元気になって長生きするのに、男性はそれっきり老け込んでしまうという話をよく聞きます。その差はきっと、人間関係の差なのでしょうね。
この頃の子どもたちは知らない大人と話をしないようにと育てられています。犯罪に巻き込まれないようにという意味はわかりますけど、未知の人と話をしないという育ち方をして、コミュニケーション能力が未熟なまま大人になるのはとても危険である気がします。友だち関係を上手く築けないのも、ネットで知り合った人を簡単に信用してしまったりするのも、その辺に原因があるような気がしてなりません。
ひとりでいる幸せ、みんながいる幸せ、どちらも特別なことではないはずなのに、こんなにも難しい時代になってしまったのは、人間の愚かさのせいなのでしょうか。
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