『藍を継ぐ海』 伊与原新 25-112-3508
これまでの伊予原さんの作品の感じから、宇宙とか科学の方というイメージを持っていたのですが、大学院で地球磁場の研究を行ってらっしゃたそうで、これが表題作「愛を継ぐ海」の海亀の話とつながって来るのですね。
石、土、といった無機質なものでも、狼や海亀のような動物でも、伊予原さんの文章によって光が当てられると、輝きを増すような気がします。どの作品も、きっと膨大な資料を読んで構想を重ねたのでしょうね。
登場人物たちはみな、どちらかと言えば人見知りな人ばかりだけど、誰かと出会うことによって小さな冒険を始めます。最初はそっと、次は少し大股で、そんな変化がとても丁寧に描かれていて、物語にズンズン引き込まれていきます。
人間は自然の一部だし、人間は宇宙の一部でもある、そんなことに気づかせてくれる伊予原さんの作品はやっぱりいいなぁ。
・夢化けの島
地質調査のために見島にやってきた歩美は、この島に何度も来ています。同じ船に黒いシャツの男が乗り合わせていました。彼は萩焼に必要な土を探しているらしいのです。
・狼犬ダイアリー
東京からやって来たフリーのwebデザイナーのまひろは、深夜に狼の遠吠えのような声を聞きました。近くに人たちから狼を見たという話も聞きました。絶滅したはずの狼が本当にいるのだろうかと、興味を持ち獣医の先生に話を聞いてみました。
・祈りの破片
長崎県長与町役場で空き家対策をしている小寺は、ある空き家から青白い光が出ていて危険かもしれないから調べて欲しいと言われます。その家を調べてみると、木箱に収められた原爆の資料が大量に出てきたのです。
・星隕つ駅逓(ほしおつえきてい)
涼子の父親が郵便局長をしている旭川の野知内郵便局の地域には2軒しか家が残っておらず、父が定年退職をするのと同時にこの郵便局もなくなります。その近所に隕石が落ちたらしいのです。その隕石調査に何人もの人たちがやってきました。
・藍を継ぐ海
沙月の家のそばの姫ケ浦海岸にはウミガメが卵を産みに来ます。沙月はその卵を盗み、自宅で秘かにで孵化させようとしていました。
3508冊目(今年112冊目)
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