『認知症の私から見える社会』 丹野智文 25-109-3505
智文さんは、39歳の時に「若年性アルツハイマー型認知症」と診断されました。医者は病名を告げ、薬をくれただけで、これからどうしていいのかを何も説明してくれませんでしたから、将来のことを考えるととても不安になったのだそうです。でも、同じ病気を持つ人と話をしたりするうちに、いきなり何もできなくなるわけじゃないということがわかってきました。
例えば、近視で眼鏡をかけている人も、0.7、0.1、0.01など、人それぞれが違います。そしてみんな違う度数の眼鏡をかけています。遠視の人や、乱視の人もいます。
それなのにみんな同じように、0.01の人の度の強い眼鏡をかけさせたらどうなると思いますか? 合わない人は動けなくなってしまうし、どんどん症状も進行してしまうでしょう。
でも、世間の人たちは、「認知症=何もできない」「ひとりにしては危ない」というイメージしか持っていません。どの程度の症状かも知らずに、やみくもにデイサービスへ行ったほうがいいとか、家族が大変だとか、勝手なことばかり言うのです。
そして、医師やケアマネージャーは当事者とではなく、家族とばかり話をして、何でも決めてしまい。当事者の意見をちっとも聞いてくれないのです。
これまでの認知症に関する意見は、医師や介護者の立場からばかりでした。本当は、当事者がどう考えているのか? どうして欲しいのか? が大事なはずなのに、認知症の人にはそういう判断をすることができないという思い込みが強いというのが、当事者としてこの本を書いた智文さんにとって大きな不満でした。
わたしの母が認知症になって病院に入院していたころ、「おかずがなんでも細かく刻まれていて、食べた気がしない」と言ったことがありました。「老人は葉が悪いから食べやすいようにした方がいい」という思い込みが病院の方にあったようです。80歳時点で自分の歯が25本あって表彰もされた母にとって、歯ごたえのない食事の味気なさは耐え難いものだっのだと思います。
あれができない、これができないと、子どもを叱るように当事者を叱るから、機嫌が悪くなり、それを言った人を嫌うようになり、ストレスが増えてしまいます。それが介護者にも伝わるから、お互いにストレスだらけになってしまうのです。
認知症だから、高齢だからといって、周りが何でも手を出してしまうのは、介護者のエゴではないかと智文さんはおっしゃっています。危ないからという気持ちはわかるけれど、やり方を少し変えれば、ひとりでできることがたくさんあります。
お茶を飲みたい時に、ガスでお湯を沸かすのは危ないなら、湯沸かしポットを用意すればいいのだし、電気をつけっぱなしにするのが気になるなら、人感センサーを付けた照明に変えるとか、そういうことを考えて、自分ひとりでできることをできるだけ残すということこそが、認知症の進行を遅らせる手段でもあるはずです。
この本の中に、様々なアイデアが書かれています。財布や携帯電話などは、ネックホルダーや、紐で鞄に結びつけるなどして、置忘れを防ぐなどは、認知症でなくても使えるアイデアです。
道に迷って帰った時に、妻に「こんなに自由に動いて何も言わないの」と訊くと「心配はしているけど、信用しているよ」と言ってくれたことがありました。
認知症をやみくもに怖がるのではなく、上手く付き合っていくにはどうすればいいのか? この言葉こそが、その答えであると思います。
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