『わたしは、あなたとわたしの区別がつかない』 藤田壮眞 25-94-3490
壮眞さんは、4歳の時に自閉スペクトラム症診断を受け、小学校では支援級に在籍。中学受験を経て現在は私立高校に通っています。なぜ公立中学校を避けたのかという部分を読んで、ウウムとうなってしまいました。彼は大勢の人がいること、音がうるさいことに耐えられません。それ以外にも敏感な部分がたくさんあります。ひとりひとりの生徒に気を配ってくれる、少人数のクラスでなければ無理です。ですから、受験勉強を頑張って中高一貫校に入学したのです。
受験勉強は、プロが横について一対一で教わった。だからできた。でも学校の授業はだいぶ違う。P89
何度やってもできない問題は、母が神に絵を描きながら説明してくれる。この「絵を描きながら」が重要だ。このときに理解できた場合、その絵を描いた紙を取っておけば、再度説明してもらう必要がない。もし忘れてしまっても、絵を見ると教わった内容が頭に再生される。P94
一対一で教えてもらえれば、どこでつまづいているのかをわかってもらえます。でも、学校での授業は一対多です。先生が黒板に書いた文字のどれをメモすればいいのか分からないし、メモに集中してしまうと先生の声が聞こえなくなるのです。
これは、自閉症でない人だって同じだと思うのです。最近、個別指導のCMをよく見るのですが、あれで成績が上がったとして、その後どうなるのかがとても気になります。せっかく希望の大学へ入れても、希望の会社に入れても、そこでは個別指導はありませんから。
英語の方がダイレクトでわかりやすい。遠回しに話さない。よくないことはよくないと伝えてもらえる。日本語は暗黙の了解が多い。それをやってはよくないっと知っていますよね。そんなルールの上で社会が回っている。これがわたしたちにはしんどい。P141
彼には人の気持ちを想像するとか、共感するということがわかりません。ですから、曖昧なことを言わないで欲しいのです。でも、日本の社会や日本語は、そうじゃないから疲れる、困る。
こういう気持ち、とってもよく分かります。わたし自身、外国の人と付き合う方が楽だと思うことが多いです。日本人の同調圧力とか横並びの発想は本当に疲れます。
以前は、進級するたびに、親と学校が支援の打ち合わせをしてくれた。いまもそれは変わらないけれど、中学三年の夏休みに作文(「自閉症を持つ私から見た日常」文部科学大臣賞受賞)を書いてからは説明が簡単になった。作文は、わたしの取扱説明書となったのだ。初対面の人でも、たまに読んでくれている人がいる。そうなるともう、説明がいらない。すごく話が早い。取扱説明書が日本中に、新聞とインターネットにのって散らばった。P220
その作文があったからこそ、この本が出されました。こんな風に自閉症の人は考えているということを教えてもらうと、「そうだったのか!」とわかることがたくさんあります。本当はイヤだと言えればよかったのだけど、どういう風にイヤと言えばいいのかわからなかったから、黙り込んだり、暴れたりしてたのだということがわかって来るのです。
この本のタイトル「わたしは、あなたとわたしの区別がつかない」のように、自分と他人の違いがわからなかったり、新しいことに対応するのが不得意だったり、食べ物の好き嫌いが多かったり、そういうことってこれまで全然知りませんでした。
壮眞さんの文章を読んでいてわかってきたのが、自閉症の大きな特徴が「常にシングルタスク」という部分です。ひとつのことに集中すると、他のことは全く考えないし、人の声も聞こえません。たとえば、消しゴムの上にノートを置いてしまうと、消しゴムの存在が意識から消えます。
「自閉症」と認定されていなくても、そういう傾向のある人はかなりいます。そうでない人にとっては「謎」だったり「変」だったりすることが、こういう理由でそうなっているのだとわかるだけで、無駄な摩擦がなくなるのです。
壮眞さん本人が大変なのはもちろんですが、彼をここまで育ててきたお母さんは凄いですね。きっと最初はどうしていいか分からないという所から始まったのだろうけど、今は彼の一番の理解者なのだと思います。でも、お父さんの影が薄いのが気になります。注射のことで余計なことを言って壮眞さんを怖がらせたという話しか出てこないのは何故なのかな?
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