『戦場の秘密図書館』 マイク・トムソン 25-107-3503
秘密図書館が作られたのは、ダラヤという町でした。この町はシリア政府軍によって封鎖され、日常的に空爆されていました。水道も電気も止められ、学校へも行けません。軍隊から見つからないように、爆撃で壊れた家から本を助け出し、その本を集めて図書館を作る努力は想像を絶しています。でも、彼らはどうしても図書館という「心の拠り所」を作りたかったのです。
「体が食べ物を必要とするように、魂には本が必要なんです」P60
秘密図書館では、そこで本を読んだり、貸し出したりするだけでなく、講義やディベートも行われました。
「もっとも記憶に残っているのは、第二次世界大戦中に原爆投下によって大きな被害を受けた日本の広島という町がいかに復興したか、という内容の講義です。それから、第二次世界大戦中の大空襲をロンドンの人たちがどのように生きのびたか、だとか、お隣のイラクの激しい内戦から何を学ぶべきか、だとか。いろいろな講座で勉強しているんです」
図書館に関わる若者たちは、内戦を生き抜き、荒廃した国を復興させ、より良き民主的な社会を築くために、ひたすら学ぼうとしていた。P98
軍隊に見つかったらという危険を冒して、この図書館へ行けるのはほとんどが男性でした。でも、ある女性教師は、学校へ行けない子どもたちのために、ここに本を借りに来ていました。かつては、みんなが学ぶことができていたし、自由に外に出られたのに、内戦のせいでそんな当たり前のことが奪われてしまったのです。せめて本を読むことで、外の世界のことを知って欲しいという気持ちで一杯でした。
内戦によって自由を奪われた状況下で、未来を考えるのはとても難しいことです。でも、図書館に集まってくる人たちは、自由を取り戻した後のことを必死に考えようとしていたのです。
「本は雨のような存在だと僕は思っています。雨が降れば、畑の作物も、草木も花もいろいろなものが育ちます。だから秘密図書館の本も、辿り着いたそれぞれの場所で、誰かに読んでもらい、読んだ人が知識を得て、その人の心が育つことを願っています。それが巡り巡って人類の成長を助けるのです。P166
ダラヤの人たちは、ここから強制退去を余儀なくされました。わずか2日でこの町を離れなければなりません。秘密図書館を残していくのはとても悲しいことでしたけど、どうにもならない運命でした。
あちらこちらに散らばってしまった人たちですが、この図書館のことは決して忘れないでしょう。食べる物さえ不足している状況で、本を読むことだけが唯一の心の安らぎだったのですから。
2017年、イドリブ県へ行った数人が移動図書館を作り、あの秘密図書館のように、多くの人たちに本を届ける努力をしています。「体が食べ物を必要とするように、魂には本が必要なんです」という気持ちを持って。
3503冊目(今年107冊目)
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