『耳に棲むもの』 小川洋子 25-143-3539
補聴器のセールスマンをしている男性は、きっと全国を歩いていたのでしょう。家に戻ることは余りなかったと娘さんが話していました。耳鼻咽喉科の病院でも、老人用マンションでも、彼は歓迎されます。補聴器のユーザーに、聴こえ具合はどうですか?と尋ね、掃除をしたりメンテナンスをしたりするのが仕事ですけど、それだけでない魅力が彼には会ったのでしょう。みんな、お茶をどうぞ、お菓子をどうぞ、と言って、なかなか帰してくれません。
「まぁ、可愛らしい」
初めて鞄を開けて補聴器を見せた時、助手さんは一番にそう言った。
「みんな丸くて、ころん、としていますね」
「はい、すべてが曲線です。神様は、直線をお作りになりません。自然も人間も、全部曲線でできています。耳もまた、例外ではありません」(おどりましょうよ より)
そんな彼にとって、補聴器のセールスマンという仕事は、単なる仕事ではなく、彼そのものだったのかもしれません。
「今日は小鳥の日」では、小鳥のブローチの会の話が出てきます。死んでしまった会長さんは部屋の中で小鳥を飼っていたのでしょうか。それはそれは多くの小鳥がいたのです。「ことり」の小父さんのことを思い出しました。
そして、わたしが小学生の頃、近所にあった床屋さんの小鳥たちのことを思い出しました。床屋さんの建物の横に縦横3m、奥行きが2mくらいある金網でできた大きな鳥の家があったのです。その中にいろんな色の小鳥が20羽くらいいました。時々その前で立ち止まって水浴びをしたり、鳴いたりしている鳥たちを見ていました。
数年後、そこは駐車場になってしまいました。あの小鳥たちは、どこへ行ってしまったの?
この5篇が収められています。
・骨壺のカルテット
・耳たぶに触れる
・今日は小鳥の日
・踊りましょうよ
・選鉱場とラッパ
あの補聴器のセールスマンが、大事なものを缶の中にしまっておいたように、わたしも大事な「缶々」を持っていたはず、どこに仕舞っちゃったのかしら?
3539冊目(今年143冊目)
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