『誰でもない』 ファン・ジョンウン 25-159-3555
「ヤンの未来」の中のこの一節が刺さってきました。
貧しい上に世話をしてくれる身寄りのいない老人の病死ほど悲惨なことがあるだろうかと思う。ジョージ・オーウェルはそれについて、人類が今までに発明したいかなる武器も、そのような自然死ほど強力な悲惨さをもたらしはしないと述べていた。だからオーウェルは置いて死ぬのではなく、道を歩いていて偶然、突然、死にたいと書いていた。私はその分の横に「そうだ」と書いた後、鉛筆の先で紙をグイグイ遠し、それからこう書き足した。「そばに誰もいない者、貧しい者は子どもなど作らない方がいい。誰もおらず、貧しいまま、死ね」と。
都会に出れば何とかなると信じてやって来たけれど、結局挫折して田舎へ帰ろうかと思ってしまう人たち。でも、そこから逃げて来たということを思い出して戻ることができない。貧しいまま死を待つしかないという苦しさ。未来が素晴らしいと信じられない空しさ。この感覚は韓国も日本も変わりないなぁ。
世の中が少しずついい方へ向かうと信じて来た20世紀だったけど、21世紀になってからはそういう夢がなくなっちゃった。貧富の差は広がるばかりで、大学出たって就職できるあてはないし。
この8編が収められています。
・上京
・ヤンの未来
・上流には猛禽類
・ミョンシル
・誰が
・誰も行ったことがない
・笑う男
・わらわい
韓国も少子高齢化が進み、人口減少が間違いなく進みます。日本だって同じだけど、若者が未来のことを考えて悲観的になってしまうのは、切ないなぁ。
3555冊目(今年159冊目)
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