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『ほんのささやかなこと』 クレア・キーガン 25-156-3552

Honnosasayakana

ほんのささやかなこと
Small Things Like These

クレア・キーガン
Claire Keegan

鴻巣友季子(こうのす ゆきこ)訳

早川書房

アイルランド 2021

2022年オーウェル政治小説賞 受賞

 ファーロングはアイルランドの小さな町で石炭と材木を扱う商売をしていました。冬になり、彼の仕事は忙しさを増してきました。ある日、女子修道院へ石炭を運んだ時に「ここから出してほしい」という裸足の娘たちに出くわしました。

 彼女たちが何故ここにいるのかを知らなかったファーロングは、その理由を知って驚きます。ここには、未婚で妊娠した娘たちが送り込まれ、生まれた子たちはどこかへ養子として連れていかれ、残された娘たちは洗濯所でこき使われ、一生出て行けない人が大勢いるというのです。

 

 この本を読んでいて、最初はもっと昔の話かと思っていました。でも、この話が1985年のことだとわかって驚きました。TVも見ているし、車もありますが、燃料は石炭や薪なのです。電話で注文を受け、その家まで運ぶというかなり体力が必要な仕事ですが、ファーロングはこの仕事に誇りを持っています。

 ファーロングの母親も未婚でしたが、雇われていた屋敷の女主人が「子どもを産んでも、そのまま働けばいい」と置いてくれたおかげで、母親と離れ離れにならずに済みました。父親がいないことでいじめられたこともあったけれど、自分はとても幸運だったのだと感謝しています。

 

 町の人たちは、ずっと続いてきたことだからと、娘たちを助けようとするファーロングを止めようとしました。でも彼は、女子修道院に閉じ込められている娘たちを見殺しにすることができませんでした。

 

 あとがきによると、この物語は1996年まで実在した教会運営の母子収容施設と「マグダレン洗濯所}をモデルにしています。この洗濯所は政府からの財政支援を受けてアイルランド各地で営まれていたそうです。

 アイルランドはカソリックの国ですから、堕胎は許されません。でも、未婚で妊娠したことを罰せられるのは女性側だけで、男性には何のお咎めもありません。自力で子どもを育てられないからといって、10代の女性だけに罪を負わせるのは、余りにも酷いやり方です。2013年になって、ようやく時の首相エンダ・ケニーが謝罪文を出したというのですから、この問題の根は深いと思います。

 世の中の不平等や理不尽をなくすには、ファーロングのような個人の気づきが大事なのです。「これまでの通り」ではいけないと、誰かが気付き、誰かが叫ぶこと、そこから何かが始まるのです。そうでなければ、理不尽なルールがいつまでも続いてしまうのです。

追記:ダブリン生まれのシンガー、シニッド・オコーナー(Sinéad Marie Bernadette O'Connor)は10代の頃に、万引きをしたことでマグダリン修道院に18か月間監禁され、過酷な労働と虐待を強いられた経験があるそうです。後に彼女はイスラムに改宗しました。彼女がローマ法王の写真を破った事件の背景には、こんなことがあったのですね。

3552冊目(今年156冊目)

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