『あらゆることは今起こる』 柴崎友香 25-172-3568
最終の診断を受けた後、ADHDに適用される薬の一つ、コンサータを飲むことになった。説明を受け、最初の一錠を飲み、しばらくして担当の先生が様子を見に来た。
「どうですか」
「あの、こういうことを言うと、大げさかと思われそうなんですけど」
「小学校六年生の修学旅行で夜更かしして翌日眠たくて、それ以来一回も目が覚めた感じがしなかったんですが、いま、三十六年ぶりに目が覚めてます」
「そうですか~、それはよかったです」P44
なんかこういう同時進行になっちゃうんですよね~、と心理士さんに言うと、ADHDの人はマルチタスクになりがちですね、とのこと。そうやんな、むしろそうやんな、と妙に納得した。脳の多動を埋めて落ち着かせるためになにかしら常に情報を摂取してしまうし、あれもこれもやらないと気になり続けているし、マルチタスク状態になるやんな。
しかしここで問題なのは、マルチタスク状態、ということで、マルチタスク達成ではないことで、やりかけて忘れたり放置したりはしょっちゅうで、だからやかんは笛が鳴る奴にしている。P250
自分がADHDだと診断されると、そんなわけがないと怒る人と、やっぱりそうだったんだとホッとする人がいるそうで、柴崎さんは後者でした。処方された薬を飲んでみて、知り合いに聞かされていた「頭の中が静かになる」という感はなかったけれど、スッキリと目が覚めているということに驚いています。
カウンセリングを受けるうちに、少しずつ自分のパターンが見えてきます。「忘れ物が多い」「遅刻する」「片付けられない」「いろんなことが気になって、優先順位がつけられなくなる」などの症状は自覚していたけれど、「迷子になる」とか「助けてと言えない」などは指摘されて初めて気が付いたのです。そうか、何かに困ったときに、一人で何とかしなくちゃということばかり考えてしまって、誰かに質問するとか、助けてもらうとかをしたことがなかったなぁと。
運動能力は比較的、生まれつき、というか、各個人の資質がもともと違うと理解されているけれども、発達障害の人が困っていることに関しては、意志が弱い、だらしない、などと判断されがち。「運動能力は各個人の資質だけれど、意志は個人の意思、本人がコントロール可能なものであって、その人の心掛け次第」みたいな感覚がある。P155
頭の中でいろんな声がしてガヤガヤしている状態。いつも眠い状態。もし自分が、いつもそういう状態でいると想像したら、そりゃ大変だってことがわかります。
ADHDの人は、ずっと誤解されてきたんです。親や教師から「だらしない」と言われ続けてきたことが、実は脳の問題だったのです。本人は、それがわかっただけでもだいぶ気が楽になったのだけど、他人の無理解はちっともなくなりません。それは、こういう人がいるんだよっていう教育や広報が不足しているだけなのに。
だからこそ、当事者の話ってとても大事です。どんな薬があるのか?とか、どうやったらADHDの人も生きやすい世の中になるのか?みんなで考えなきゃね。
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